過去編②

太陽の下、 一人で草原で自由に飛び回る虫を羨ましそうに見ていた時、突如私の元に男の子がやってきた。他の子供達は皆で鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたりしている中、私だけ一人で草原でぼーっとしている時にその男の子はやってきた。


「何してるの?こんなところでどうしたの?」


きょとんと、小動物が首を傾げるように。

幼いながらも何処か凛々しさのある男の子は、銀色の髪を揺らしながら私に近付いて来た。


どうして? どうして私に話し掛けるの?

私の髪は真っ赤なのに、どうして?


子供達から恐れられていた私は、男の子が私に話し掛けて来たことに驚いた。


「もしかして……私のこと?」

「うん。そうそう。君のこと。」

「どうして、どうして貴方は私を恐れないの?」

「だってさ……僕の婚約者になるかもしれない人なんだから、一目見なきゃ駄目じゃん。」


何処か嬉しいような、何処か恥ずかしいような、そんな表情を取りながら男の子は私の方を見て微笑んだ。

そんな表情を見て、私は一瞬だけ心が救われるような気分を味わったが、直ぐそんな思い込みは止めた。


どうせ、この子も私の髪が可笑しくて見に来ただけだろう。

婚約者と言ったが、婚約が成立するとは思えない。

私のような赤い髪を持つ女じゃなくて、どうせ違う女を最後には選ぶだろう。

そう思った私は、男の子が離れていくのを待った。


「ねぇねぇ。何で無視するのさ!!僕がこんなにも話し掛けているのに。」

「……………」

「僕のこと、もしかして嫌い?何処が嫌だった?」


何故か、何故か男の子は私から離れずに何度も私に話し掛けていた。

別に、私は男の子が嫌いな訳じゃない。ただ、こんな私に纏わり付くということは何かあるのではと疑ってしまうのだ。

だけど、流石に無視を続けて良心が傷つけられてきた私は、言葉を返すことにした。


「別に、嫌いじゃない……」

「よ、よかった。嫌われてなくて。……っていうか、やっと僕のこと無視するの止めたね。」

「……どうして、どうして貴方は私を恐れないの?」

「だって、僕の婚約者になる人なんだから仲良くしたいじゃん。もっとお話しようよ。」

「……私の赤い髪が恐くないの?」

「赤い髪?珍しいけど、恐くないよ。むしろ……綺麗っていうか、もっと近くで見てみたい。」

「――えっ!!?」


男の子の言葉に、私は耳を疑う。

私の髪が綺麗? 私の赤い髪が?

恐れられると思っていた赤い髪が恐れられていないことに、私は嘘だとしても嬉しくなる。

だけど……嘘でもいいから、もう一度その言葉が聞いてみたかった私は、もう一度言ってとお願いすることにした。


「……もう一回言って。」

「え?もう一回って何?」

「……やっぱり私の髪嫌いなんだ。まぁ、そうだよね。私の赤い髪なんて……」

「………君の赤い髪綺麗だよ。」

「――ん!!」


恥ずかしそうに顔を紅く染めて、両手で顔を塞いで指の隙間から私のことを見てくる男の子。

私の髪を綺麗だと思ってくれる人が居るんだ。

モジモジとする男の子を見て、私は何処か心が救われたような気分を味わった。

そして、その動きからつい笑ってしまった。


「ああーっ!!今、僕のこと見て笑ったでしょ。酷い。」

「ふふっ。だって、貴方のモジモジとした姿が面白過ぎて。つい笑っちゃった。」

「酷い!!僕に酷いことしたんだから、その髪を触らせてよ?動かないでよ?それっ!!」

「ちょっ!? そ、そんなに急に撫でないでぇー!!」

「すべすべしてて気持ちいいぃぃ。ねぇ、今度は耳触っていい?」

「駄目に決まってるでしょ!!」

「あっ!! 逃げないでよ?待て待てぇぇー」

「きゃあ!!」


男の子から逃げるように走る私は、草むらに入って男の子から隠れようとする。

すると、草むらの何処かに穴が空いていたのかそこにつまづいて転んでしまった。


「だ、大丈夫?何処か、怪我してない?」

「大丈夫だから、ちょっと離れて。」

「ちょっと待って!! 膝から血が出てるじゃん。駄目だよ。そこから動かないでね。 絆創膏と消毒持ってくるから。絶対だよ?」

「えっ?…う、うん。」


少しして、救急箱を持って慌てたように走って来た男の子。

いつも妹から足を引っかけられて転んでる私からして、これくらいの怪我どうってことなかった。

でも……ペタペタと、不器用なのか何度も絆創膏を貼り直している男の子を見て、何処か私は安心を覚えた。


「完成ー!!どう、立てる?」

「う、うん……ありがとう。」

「どういたしまして。そう言えば、君の名前は?」

「私の名前は………ローズ。」

「ローズって言うんだね。これからよろしくねローズ。僕の名前は、アレンって言うんだ。」

「アレン………うん。覚えた。」


彼との初めての出会い。

今まで生きてきたどんな日よりも、その日は幸せだった。

もっと早く彼と出会えれば良かったのにと、私は衷心から思った。

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