思い人
「ねぇねぇ、リーゼは何処に行きたいの?次の日曜日一緒にデートしようよ?」
「何で私が……最近、貴方の婚約者は私じゃなくて私の妹に替わったんじゃなかったんでしたっけ?──なら、妹と行けばいいじゃないですか。」
「あー!!また、貴方って言った。僕のことはアレンって呼んでって言ったじゃん。それに、僕はリーゼがいいの!!……っていうか、口調も昔のように砕けたようにしてよ!!」
「ごめんなさい。」
「……謝らないでよ!!リーゼは悪くない!! 全て、僕とリーゼの家族が悪いんだ。よくも勝手にリーゼとの婚約を破棄させて、ラエアとかいう女と婚約させてくれたな。絶対に許さないからな。」
何処か子供っぽさの残る私のアレン。
本当なら砕けたような口調で話したり、昔のようにアレンと呼びたい。
それに、デートだって本当は行きたい。
……でも、それが許されないのだ。
だって、私は悪魔に綱を握られているから。
今までは何とか生きてくることが出来たが、今度こそ私は死んでしまうかもしれない。
あのラエアという女に。
そう……私が寝ている間に首を全体重を掛けられて締められたら、私の使う食器類に毒を塗られたら、森の奥に使用人を使って連れていかれたら、簡単に殺されてしまう。
こんな命、別に無くなってしまってもいい。
だけど、そうしたら彼が悲しむだろう。
だから、私は彼女に従う。
途中、私が彼女の部屋に忍び込んで寝ている隙を付いて首を締めたら、彼女を殺せるかもしれないと考えたが、止めた。
そんなことしたら、直ぐにバレるだろうし、何よりアレンに嫌われてしまうかもしれない。
彼に嫌われるようなことや、彼を悲しませるようなことはしたくないのだ。
それに、ラエアと結婚するのだから、たまに私もアレンと会えるかもしれない。
そう思えば、私も生きている価値はあるということだ。
今だってこうしてアレンと話をしているが、もしラエアに見られたら……
ラエアに見つかるのではないかという恐怖に彼と一緒にいるという至福の状況を喜べないでいると、アレンと私の近くでこちらに近付いて来ていた足音が止まった。蛙が蛇に睨まれるように、息が止まってしまいそうな程恐怖を感じる視線。力を振り絞って何とか後ろを振り返ると……そこには、ラエアが。
終わった……
すると、ニコニコと狂気に満ち溢れた笑顔でラエアは口を開いた。
「こんにちはお姉さま。そんなところで私のアレン様とどうしたのですか?」
家では絶対聞くことのないような、人前でしか出さない口調。
隣に居るアレンを見ると、明らかに不機嫌だ。
私に見せてきた、最近人気の喫茶店の載ったチラシを握り潰している。
だが、見事というべきか顔はニコニコとしている。
アレンのニコニコとした顔を見て私はほっとした。ここでアレンが眉をひそめていたりしたら、私がアレンに何か告げ口したのではと思われてしまうからだ。
そうしたら終わりーー
今は大丈夫だが、何時か気付かぬ内にこの世を去っているかもしれない。
もし死ぬとしたら、アレンと始めて出会ったあの花園で死にたい。
アレンとの最初で一番大切な思い出の場所。
死んだとしてもアレンのことを忘れないように、一番の思い出の場所で眠りたいのだ。
もしかしたら、来世また覚えているかもしれないから。
「アレン様にラエアとのデートに行く場所で相談があると言われまして。」
「ちょっ!?………そうだよ。ローズにラエアとのデート場所は何処がいいか相談していたんだ。」
「まあ~そうだったんですね。……ラエア、とっても嬉しいですぅ~デートの日は何時にしますか?」
「……日曜日何かどうだ?」
「私も日曜日空いてますぅ~これはもう運命って奴ですね。やっぱり私達は神様からも結ばれることが薦められていて………」
妹とは明らかに違う私との態度。
私への態度は何処か優しくて子供っぽらしさが残っているが、ラエアに対しては優しさなんて込もっていない。
先ほど握り潰したチラシは、今度は下に落としてぐしゃぐしゃに踏み潰している。
どれほどストレスが溜まっているのかが、見て分かる。
本当ならラエアとアレンを結びつけなければいけないのだから、こんなことを思うのはいけないんだろうけど、ラエアに対して怒りを見せるアレンを見て何処か嬉しくなってしまう。
「それじゃあ、後は二人で仲良くどうぞ。」
「………じゃあね。ローズ。」
「さよならお姉さま。」
私に逃げられたことに、拗ねるように手を振るアレン。
本当はその手を取って、夜になるまで長い時間彼と過ごしたいが、この状況で出来る訳がないので、出来るだけ私は笑顔で手を彼へと振り返す。
本当なら妹なんてはね除けて、アレンとじっくりデートの話をしたいがこれでいいのだ。アレンを見ているだけで、今日もアレンと少し話をすることが出来ただけで、私は物凄く嬉しい。
嘘つきで正直になれない私を、貴方はいつまで好きでいてくれますか?
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