夜の散歩にご注意を

 仕事が終わると、私は日課である犬の散歩に出かけた。近所には広い自然公園があり、夕方は犬たちの憩いの場所になる。

 いつもなら日が暮れるちょっと前にいくのだが、今日は仕事が長引いたこともあり、あたりはすっかり真っ暗だった。


「ロン、遅くなってごめんね」


 愛犬のロンに話しかけると、ロンはしっぽをブンブン振った。気にするなよ、とでもいいたげだった。

 私たちは入口に一つだけある外灯の下を通り、車が一台もない駐車場を横切った。ここは公園といっても、夜の利用には向かない。遅くとも七時には駐車場が閉鎖され、それからすぐに入口も閉まってしまう。この時間から公園を訪れる人は、おそらく私たちだけだろう。


 あまりに暗くて危ないから、今日は公園を一回りして帰ろうかと思っていた。けれども、いつもボール遊びをする広場に着くと、ロンは飛び跳ねてボールをねだった。

私は、一度だけね、といい聞かせながら、ボールをいつもより低く放った。ロンはすぐさま大興奮で追いかける。


 結局ロンが満足するまでボール遊びをし、私たちは広場を出た。周りはさっきにも増して真っ暗で、ロンの首につけたライトと、手元の懐中電灯だけが唯一の明かりだった。


 行き道と同じく駐車場を横切り、外灯の下を通った。

 その時、うしろからスピードを出した一台の車が、私たちの方へ迫ってきた。私は反射的にロンのリードを引っ張って、車から遠ざけた。


 車は私たちにぶつかりそうになる直前、スピードを緩めた。運転手はわざわざウインドーを開け、こちらに顔を向けた。ロンが驚いてウォンウォン吠える。怒鳴られるかと身構えたが、運転手は無表情に私を見ただけで、すぐにまた通り過ぎていった。


 轢かれそうになったショックから、しばらく身体が震えていた。ロンはまだ吠えている。普段こんなに吠える子じゃないのに。よっぽど怖かったのだろうか。

 私自身まだ心臓がドキドキし、放心状態だった。ロンに手をペロッと舐められて、ようやく我に返った。


「ごめん、ロン……帰ろっか」


 その後、私たちはごく普通に帰路につき、家まで辿り着いた。でも私には、なにか忘れているような、薄気味悪い違和感が残っていた。その理由は未だわからない。


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