休日のランチは簡単リゾットを
明日は美味しいもの作ってあげよう。そう考えていたはずだった。
しかし蓋を開けてみれば、現在の時刻は十一時過ぎ。貴重な休日がほぼ半分になっている。わたしは跳ね起きて寝室を飛び出した。
「なんで起こしてくれないの⁉」
「いや、目覚まし鳴ってたけど自分で止めてたし。休みだから寝かせてあげよっかなーって」
遅刻寸前の学生みたいな文句を言うわたしに、彼は苦笑いだった。わたしはボサボサだった髪を結いながら彼をねめつけた。
「休みの日だってやりたいこといっぱいあるの! 掃除したり洗濯したり、買い物いったり」
「掃除と洗濯なら俺やっといたよ。あ、風呂掃除も。アイロンはひとまず俺のワイシャツと、光莉のブラウスはかけといた。戸棚ちょっとぐちゃぐちゃで整理しちゃったから、あとで確認して。でも買い物はさすがに光莉と一緒じゃないと、なに買えばいいかわかんないからさー」
「ぐ……っ」
このスパダリ予備軍め……。
「いいじゃん、たまには。いつも俺の方が帰り遅くて、やってもらってばっかなんだし。家にいる時ぐらいやらせてよ。それより腹減らない? ちょうど余ってたミートソース解凍したから、パスタ作ろうかなって」
その言葉でわたしはハッとなった。
「パスタ切らしてた!」
「え、マジ?」
確認していなかったのか、彼は慌てて戸棚を見た。
「あ、ホントだ……あー、整理した時もっとちゃんと見りゃよかった。でもソース解凍しちゃったしなぁ。今から買い物いく? それとも昼は別なのにして、夜パスタにしようか」
「うーん、でも……そうだ」
ふと思い立ったわたしは、冷蔵庫の中と炊飯器をチェック。うん、問題なし。
「わたし簡単に作っちゃうよ、任せて」
「うん……なんかごめん」
「いいよ。寝過ごしちゃった分働かなきゃ」
彼はダイニングに戻り、わたしはエプロンを身につける。冷蔵庫から必要なものを取り出し、調理開始。まずは鍋に水を入れて火にかける。沸騰したら固形のブイヨンを入れてスープに。ブイヨンが溶けたら、解凍したミートソースを混ぜる。煮立ったところへ、今度は残りもののご飯を投入。弱火にしてじっくり煮込んで、ご飯がスープをしっかり吸ったら、仕上げにピザ用チーズをパラパラと。
あっという間にミートソースリゾットの完成。
器に盛り付けていると、彼がひょこっと顔を出した。
「いい匂い。リゾット?」
「正解」
「その手があったか」
彼はわざとらしく、軽い舌打ちをした。
冷蔵庫に残っていた野菜でサラダも作り、コップには野菜ジュースを注ぐ。簡単手抜きランチのできあがり。
ダイニングテーブルに料理を並べて、二人で向かい合って座る。同時に手を合わせて「いただきます」をした。
まだ湯気の立つ熱々なリゾットを、スプーンに乗せて彼は一口。途端、熱すぎたのかゲホゲホ咽た。
「あっつ!」
「当たり前じゃん、ほら」
ジュースが入ったコップを急いで差し出すと、彼はほぼ一息で飲み干した。
「あー……焦った」
「バカだなぁ」
「腹減ってたんだって」
ばつが悪そうにしながら、今度はしっかり息を吹き込んだ。
「んっ、うま」
「でしょう?」
「さすがうちの彼女は優秀」
手抜きランチでも褒められると悪い気はしない。わたしは食べ進める彼を見つめながら、ほんのり幸せ気分に浸る。
じっと見られているのが落ち着かなかったのか、彼が「なに?」と笑った。わたしも思わず笑い返した。
「
「どうした、急に。おねだりなら次の誕生日までお預けだよ」
「ひどっ。せっかく人が日頃の感謝を伝えてるのに」
わざと拗ねて口を尖らせると、彼は「うそうそ」と言った。
「俺の方こそ、いつもありがとう」
「どういたしまして。……あれ? 今日って記念日だっけ?」
「覚えがないなー」
ケラケラ笑い合っていると、皿はいつの間にか空になっていた。二人でキッチンに立って後片付けをしながら、わたしはひとつだけ忠告した。
「今度から料理をはじめる前に、ちゃんと材料チェックしないとね」
「反省します」
「よしよし」
冗談めかして彼の頭を撫でてみれば、その頬がほんのり赤く染まる。
「なんだよ恥ずかしいな……って、光莉手に泡ついてんじゃん!」
「あ、バレた?」
「うわ、濡れてるし」
こんなバカげたやり取りすら、彼とだったら愛おしい。なにげない日常が、わたしと彼にとってはなにより尊い。できることなら明日も明後日も、その先もずっと続いてほしいと願う程に。
「夕ご飯はなににしよっか」
だから今日も、二人で一緒に美味しいご飯。
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