『老いはぎ』4 その中の上・・・・・『霧』
霧が深い。
まるで、地獄から湧き上がるような、ものすごい霧だ。
昔、高速道路を冬の早朝や夜間に走っていると、山の中では、深い霧に取り巻かれることがよくあった。
しかし、この霧は、もっと異質なもののような気がする。
同じ水滴なんだったら、変わりないだろ。
もちろん、そうなんだよね。
でも、質感が違う。
水とは違うものによって作られた霧みたいな感じだ。
まあ、異世界とは言え、地球ならば、そういうことはないだろうけれど。
『このあたりの霧には、意思がありますんで、ご機嫌を損ねると、まずいことになりやす、はい。』
『どんな、まずい事に?』
『そりゃあ、あんさん、有視界走行は出来ませんから、いまも、計器走行中ですがね、こいつが効かなくなる。』
『なんで?』
『そおりゃあ、あんさん、聞かれても、わかんないやね。』
『それは、失礼しました。』
『いやね、そうなったら、どこに行くか、いやあ、行かされるか、見当もつかないんでさあ。連中の思う方向に飛ばされるんです。下手したら、地獄の門とか。怪物の住む町とか。で、喰われちまう、てな、案配で。』
『それは、いまさら、いやだなあ。ぼくは、殺されたんだろ?』
『そうすか?』
『いやあ、そうだと言う気がしてきたんだ。なんとなく。もうちょっとで、思い出しそうなんだ。』
『そおりゃあ、大変だ。あんさん、早く思い出したら、帰れるかもっす。』
『え、ほんとに?』
『いやあ、うわさですがね。現世とここでは、時間にずれが生じているらしい。だから、早く思い出すと、ちょうどいいタイミングで、現世に帰れるとか。』
『あまり、説得力は。ないなあ。』
タクシーさんが、がたっと、揺れた。
『そうすか。おっと、霧の連中、ちょっとご機嫌がよくないすなあ。あんさん、なんか、良くない事しませんでした?』
『いやあ。いたって、普通以下。』
『ふうん。罪人を運んでると、霧たちが怒るんでさあ。』
『罪人、てのは、何が基準? 法律? 道徳? 思想?』
『連中の基準は、連中しか知りませんや。』
『そりゃあ、まあ、そうだろね。カード・ゲームみたいなものかな。よく知らないけど。』
タクシーさんは、ずいぶん、がたがたと揺れ始めた。
『ややややや。こりゃあ、あまりよくないなあ。失速するかもなあ。あんさん、やっぱり、降りますか。ここらで。』
『いやだよ。こんな、わけもわかんない場所で。』
『そうすなあ。まあ、請け負った責任ってものは、ありますからなあ。大懺悔山は、もうすぐのはずですぜ。行けるところまでは、行きますがね。』
あたりは、真っ白。
山があるんだか、ないんだか。さっぱりと、わからない。
こういう時は、よく事故が起こりやすい。
*************** つづく
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