『老いはぎ 』4 その中・・‥・『タクシーさん』

 ぼくは、その『大懺悔山』の浄角上人さまを尋ねる事にした。


 古来、こういう場合は、尋ね当てるまでが冒険の旅となるのが普通である。


 しかし、やましんのお話しは、省力化が進んでいる。


 山の中の道路に佇んだぼくの前に、上下さかさまになって走って来る自動車があった。


 『タクシーマークが車体の下にある?』


 ぼくは手を挙げた。

 

 すると、思いのほか、すんなりと止まってくれたのである。


 『へいー。まいど。お乗りになりやすか?』


 『はあ。そうしたいけど、初心者なので。よろしくお願いいたします。』


 『初心者も新車も同じでさあ。新しいってのは、新鮮で良い事、さあ、どうぞ。』


 運転手さんは、ドアを開けた。


 さて、・・・どうやって乗ったモノかしら。


 『あんさん、普通に入ればいい。勝手に回転するから。』


 『はあ・・・では。』


 普通なら足元の方を、逆に上に見ながらなんとか無理やりに車内に入ると、あら不思議、身体が一回転して、すっぽりと座席に納まった。


 『あらあ。おかしいな。』


 『なにがおかしいんですかあ。それが普通なのだ。理屈に合ってまさあ。』


 『何の理屈?』


 『異界の理屈。ここは、現世が逆様に反映された異界でさあ。で、どこに行きたいすか?』


 『あの、ぼくが持ってるのは、これだけなんです。』


 ポケットをまさぐっていたら出てきた、千ドリム札が三枚。


 『お、豪勢だね。きょうび、3百ドリムが多い。地獄の渡しは、デフレだと思われてるらしいね。それだけあれば、地の果てまで行けますぜ。で、どちらに?』


 『はあ・・・あの、大懺悔山の浄角上人様に会いに行きたいんだ。』


 『わかりろやした。大懺悔山ね。難所だ。ひとっとびしましょうか。では、出発~~。』


 ぶわ~~~~~~~!!!


 タクシーさんは、さかさまのまま、猛スピードで滑り出した。


 


  ************       🚖



 

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