『老いはぎ』4

やましん(テンパー)

 『老いはぎ』4・・・・『ゆうれいのなげき』


 これは、ホラーと呼ぶには、あまりに、かわいそなので、どちらかというと、おとぎばなし、です。



         🎃



 危ない田舎の幽霊屋敷から脱出したぼくは、こんどは、ある程度の都会に潜伏した。


 『こんなの持ってるなら、最初から、こちらにしてくれてもよかったのに。』


 ぼくは、すねたように言った。


 『まあね。ただ、一杯だったわけよ。世の中から逃げてるのは貴方だけじゃないわ。ここは、人気かある。でも、貴方は、裏政府から狙われてる大悪人だからね。目立つ行動は禁止。外には出ないこと。食堂のおかみさんが、管理人さんでもある。病気とかの相談は、彼女にして。我々は、一旦引き上げる、他の仕事があるから。』


 『はあ。それは、もう。』


 『いざというときは、例のところに、通報しなさい。じゃ、健闘を祈ります。』


 これが、この世の見納めの始まりだなんて、だれが、思うだろうか。


 実際、なにかが出てきそうな、陰鬱な部屋である。


 ぼくは、一段落してから、夕食にしようと食堂に向かった。


 アパートの住人は、表に出なくても、内側から食堂に入ることができる。


 あまり食欲もなく、おばさんに再度挨拶して、ラーメン・ライスを頼んだ。


 『ある程度、食べといた方が、良いぞなもし。人生、一寸先は闇ぞな。』


 『はあ・・・・・じゃあ、『肉じゃが野菜B』の〈小〉を追加。』


 『あいよ。無理はしなくていいぜよ。』


 『おばさん、どちらの方ですか?』

 

 『地球人。』


 『ああ・・・ああああああああ。ははははは。』


 ぼくは、食べ物が出るのを待った。


 そんなに、時間はかからなかったと思う。


 そうだったと、思うのだ。


 最初のラーメンを一筋、食べたと思った、その瞬間。


 あたりが、真っ暗闇になった。


 『ぐわん、な、なんれすか。核攻撃かあ?』


 『くそ。次元波動、感知。なんてこつか。』


 おばさんが、そう叫んだのが、まさに、この世の見納めだった。

 

 食堂全体が、ぐらぐらと激しく揺すられた。




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 みなさん、こんばんは。


 ぼくは、幽霊さんです。


 なんでこうなったのか、わからない。


 深い山の中に、ぼう〰️〰️〰️、と、立っていたのである。


 自分で自分が、幽霊であると認識したのは、車道に出てからでした。


 自動車にぶつかっても、関係ないのだ。


 するっと、ぬけてしまう。


 これは、通常にはあり得ない。


 自分が死んだことを知らずに、幽霊になって出る、というお話はよくあるが、ぼくの場合は、明らかに、そこに、気が付いたくちであります。


 しかし、記憶が、まったく、はっきりしない。


 いや、さっぱりない。


 記憶喪失幽霊さんである。


 周囲を見回すと、幽霊さんは、けっこう、いっぱい、さまよっているのだあ。


 つまり、珍しくないのである。



 『あなた、迷いましたね。』


 シルクハットのおじさんが声を掛けて来た。


 『記憶はありますか。』


 『いやあ。なんだか、わからないのです。あなた、幽霊さんでしか?』


 『さよう。そこは、気が付いているか。それは、目出度い。しかし、あなた、なり立てですなあ。』


 『さあ、・・・・でも。そうなんでしょう。山に立っていた前は、分からない。』


 『ふんふん。吾輩は、多少、あの世に通じておる。あなたは、この先、みっつの道のどれかに進むことになるであろう。まずは、過去が蘇らず、悪性の幽霊になってしまう道、もう一つは、過去を思い出し、その清算に進む道。最後が、天国か地獄かに進む道。あなたは、現在、すべての道から遮断され、迷っておる。最初の道は、勝手にやって来る。なにもしなければ、ですな。ふたつめは、多少努力が必要なり。すなわち、『大懺悔山』の、奥深くの祠にて、長く修行のみちにある、浄角上人に助けを乞い、記憶を呼び戻してもらう方策である。あと、この、道に迷った連中をスカウトする、死神さんや天使さんたちがいる。彼らは、選り好みが激しい。特に最近は、地獄に行っても、天国に入っても、迷惑行為を行う輩が増えたので、みな、慎重になっておる。見た目は、普通の幽霊に変わらぬが、いざとなったら、正体を現す。この、法玉を授けよう。これは、死神避けになる、天使さまは、避けずともよからろうて。ただし、一級の死神には通じぬ。めったにおらぬが、出会ったら、それがご縁であると思いなさい。では。』


 『ああ、あの、あなたは?』


 『吾輩は、銭形啓二郎という、異空間探偵である。では。』


 いくうかんたんてい?


 さっぱりわからないうちに、男は虚空に消えたのであります。



  ************   ************ 


   

                       おしまい。 

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