『老いはぎ 4』 その中の中・・・・・『挫折したタクシーさん』 


 『おわ。まずいでし。これはあ!』


 タクシーさんは、どんどん急降下しているようであった。


 乗った時に申しあげたように、このタクシーさんは、普通の下側を、つまり、車輪のある方を上にして走っている。


 中にいるぼくたちは、くるっと一回転して、床側を頭にして座っているのだった。


 当然、車輪で走っているとは思えない。


 まわりが真っ白になっているから、現状は分からないが、これだけ降りることを考えたら、相当高いところを走っていた。

 

 いや、飛んでいたのだろう。


 『あんさん、悪いですが、ここまでですなあ。間もなく軟着陸しますから、あとは、歩いてください。霧たちが、この先にはこの車を入れたくないらしいですよ。』


 『あの、ここ、初めてですか?』


 『いやあ。そういうことはない。大懺悔山の管長さんとかは、よく、会議に出かけるから、時々呼ばれるんだ。霧さんたちは、大懺悔山の意向を反映するとか、聞いたことがある。つまり、あんたさんを、たやすく入れたくないんだろ。しかし、他人ごとではあるけど、あきらめちゃだめだぜ。『初心忘れるべからず』ですぜ。艱難辛苦を乗り越えてこそ、悟りが開ける、と、管長さんもよく言ってるみたいだ。がんばろう。』



   どすん!



 タクシーさんは、反対向きのまま、霧に覆われた地上に、荒っぽい着地をした。


 『お支払いは、現金すか、カードすか。』


 『カードは使えるの?』


 『そうりゃもう、現世のカードは、大体使えますぜ。お、これ、OKね。ええと、200ドリムす。毎度ありがとうございます。お帰りの際も、是非ご利用下さい。大懺悔山の事務員さんに頼んだら、呼んでくれやす。これ、あっしの名刺す。よろしく。あ、これ、乗車記念の飴玉2個す。1個で、1日は生きてられます。』


 『だって、もう、生きてないだろう。』


 『そこですが、あんさん。たぶん、あんさんは、まだ現世に籍があるんじゃないすか。そんな気がする。あっしの、勘、ですがね。じゃ。』


 ぼくを強制的に下ろすと、タクシーさんは、深い霧の中に消えていった。


 ぼくは、ひたすら真っ白な風景の中に、取り残されたのである。



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