第12話

 キッドはそう答えたレオンを黙って見ている。まだ立ち去る気がないようだと判断し、さらに言葉を続ける。


「キッド、君は大した筋肉もついてないし、銃も剣も杖も持ってないみたいだけど、もしかして〈命装〉の獲得者じゃあないのかい。もしそうなら、なおさら僕に構う暇なんてないはずさ」


 〈命装〉は、魂魄・命そのものが宿す武器だ。この神の祝福ともされる超常の武具を手にした者は、もはや迷宮病に罹患しないとされている――実際は命装もまたこの病の一症状に過ぎないのだが――いずれにしろ、この力を手にすればそれだけで、迷宮守りとしては一端と言える。迷宮の魔物に対してより深い傷を負わせることができるし、厄介極まりない迷宮病への(ある程度の)耐性を獲得できるというだけで、すべての迷宮守りにとって垂涎ものと言えた。


「確かに私は〈命装〉の獲得者、しかしそれは肝心なことじゃあない」


「肝心だと思うけどね。まあとにかく、恐らく期待には応えられないので、今日の所はどっかへ行ってくれないかい」


 キッドはそうした。レオンは彼女のことは他のろくでもない貧乏人ややくざ者・・・に比べれば大して嫌悪するわけでもなかったが、作業中に話しかけられるのはあまり好きではなかったので、今後は別の迷宮へ移動することにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る