第8話
食事は一日二食にした。昼前に起きて、まず昼飯、夕方に晩飯を食ってさっさと寝る。公社の地下か、そこが混んでいる場合下宿屋から近い風呂屋の隣にある、薄暗い食堂を利用した。そこが薄暗いのは灯りが壊れてるからで、それを修理しないのかと店主に尋ねたら無視された。毎回謎の肉が入っているシチューと固いパンを頼んだ。これは魔物の肉ではないかという噂があった。都市部の人口は増え続けてて、食料問題が囁かれて久しい。勝手に迷宮で生まれる魔物の肉を食うのは一見良いアイデアに思えたが、大抵臭みがひどくて食えたもんじゃない。だが近年、古代帝国の秘儀だかどっかの大学の新技術だかで、その臭みを消す手法が生まれ、魔物肉が安く出回っているという話だ。いずれ人工培養によっていくらでも肉を作れるようになるらしい。レオンや他の大半の労働者は、安くて腹が膨れるってんなら、魔物の肉でも人造肉でも別に構いはしなかった。
ある日下宿の部屋から表に出ると、腕から血を流している男がいて無表情で煙草をふかしていた。結構な量の出血だが、彼は痛そうにする様子がなかった。
「あの、それはどうしたんですか?」
「ああ? 何だって?」
「何が原因で、腕から血が出てんですか?」
負傷した男は、レオンの問いかけにしばらく沈黙してから答える。
「迷宮でゴブリンに噛みつかれてよ、もちろん喉笛を掻っ切ってやったがよ」
「そいつはすごい」
「おお、大したもんだろ、そんで兄ちゃん。金貸してくんねえか?」
男の垂らした血だまりに、蟲が集っている。あの、駅で出会ったエルフの目に住んでいたものに似ていた。彼の目から時折あの個体も抜け出し、こうして誰かの血を飲んでいるのだろうか。
「なあ、ちょっとでいいんだ金を――」
「僕も金はねえから、貸せないんだ。今週の家賃と食費でもう素寒貧だからさ」
「だろうな」
男もレオンもそれ以上何も言わずに、足元の血を見つめている。蟲はどんどん増えていく。
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