沢里

エリー.ファー

沢里

 お前がここで死ななきゃ終わらないのに、ぐずぐず生きていることが問題なんだよ。

 分かるだろう。

 お前、邪魔なんだよ。

 人殺して、女やり捨てて、そのまま逃げてきて、挙句の果てに金の持ち出し。てめぇに何が残ってるっていうんだよ言ってみろこの野郎。

 嘘ばっかつきやがって、自分の命がそんなに大事かって聞いてんだよ。なぁ、分かるだろ。お前もこの世界に長くいるんだ。これ以上の説明が必要かよ。いらねぇだろ。

 お前が、自分の失敗を誰かにかぶせたいのは分かる。でも、お前の名前は知られ過ぎたんだよ。あと、一か月早かったら誰かが助けに来ただろうな。でも、もう遅い。誰もお前を助けようとはしないし、仮に誰かが助けようとしたところでその期限は過ぎちまった。

 いいか。

 優しさも残っちゃいないんだよ。

 何もない。

 お前の手の中には何もないんだ。

 泣くな。いい大人のくせに。

 何度も何度も同じ言葉口から吐き出して、次は大丈夫です。次はなんとかやります。次こそは。次につなげます。次は失敗しません。次から頑張ります。次のために努力するんです。次成功させるための経験を積みました。次からはあいつを仲間に引き入れます。次は裏切りものを見つけます。次は一千万用意します。次はこの場所で首を取ってきます。次は俺の生き様を見せます。次は手土産をもってきます。

 その繰り返しだな。

 分かってないわけないだろ。

 お前がそうやってつぶやいた数は、過去の自分に別れを告げて前を向いた回数じゃない。過去の自分に失敗の責任をすべて押し付けて、罪悪感を持たない楽な状態のまま未来に向かって進もうとする怠惰の証だよ。

 聞き飽きた。

 沢里。

 聞き飽きたんだ。

 お前の口から出る言葉。

 お前の目から発せられる言葉。

 お前の動きから出てくる言葉。

 お前の生き様が見せる言葉。

 全部、聞き飽きたよ。

 もう少し、長くお前とやりたいと思ってた。少しでも長く、お前を舎弟として可愛がりたかった。

 なぁ。

 可愛がらせてくれよ。

 そうだろう。

 俺だって舎弟をを大事にしたいんだ。だから、大事にされるようにふるまってくれよ。

 なぁ、頼むぜ。

 俺は、お前のこと本当に好きだったんだぜ。嘘じゃない。これはマジだぜ。

 お前の墓なんて見たくなかったし、お前に俺の墓を見せるような立場になりたかった。時間が少しだけ巻き戻ったら、お前を舎弟にするかどうか、俺はもっと深く考えるだろうな。

 そして。

 またお前を舎弟にするよ。

 こういうことになってもな。

 ちょっと、待て。携帯に電話が。電話に出るから大人しくしてろ。

 もしもし、あぁ。はい。その節は。

 あ。

 そうですか。そう、ですか。なるほど。じゃあ、しょうがないですね。はい。

 そうなっちまったら。

 もう、終わりですね。

 はい、じゃあそちらへ向かいます。

 沢里。

 今、電話が来たよ。

 お前が裏切りものだったんだな。

 俺は、てっきりお前がただのドジなやつだと思ってたよ。いや、本当に最初はドジだったのかもな。でも、途中から俺から何かを学んで男になっていったのか。

 あぁ。わからねぇな。

 沢里よ。お前も知ってると思うが、もうすぐ、ここにお前の手下が来るそうだ。

 俺はもう逃げられないらしい。

 お前の計画通り。

 全部、綺麗にことは運んでるみたいだな。

 なぁ。沢里よ。

「なんですか、兄貴」

 頼むから、俺を殺すのはお前であってくれ。

「返り血で汚れたくないんで、下にやらせます」

 そうか。そうだな。

 沢里。

 俺は知らなかったよ。

 お前、そんな嫌な言い方ができる男だったんだな。

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