ギャップを埋める。そして、声の主。

朝、目を覚ますと忘れたはずの、悪夢がよみがえってきた。

先ず、夢で出会った一目ぼれの相手は、魔法少女に変身した俺だったということ。

次に、姿は少女、見た目は可憐、声は元のまんま。

ギャップがすごい。

「あーあーあーあっ」

声を整え、少し高めの声で「あいうえお」

いや、もう少し柔らかい声で「いうえおあ」

もう少し低くてもいいか「うえおあい」

これで行こう。

でも、戦う時に魔法少女になってしまうとなると、今後誰かとパーティを組める気がしない。

其のうえ、戦ってるときは、絶対地声が出るだろう。

まだ冒険者になって日も浅い。

余計な心配かもしれないが、冒険者パーティの仲間とかできたら、戦うたびに性別変わる俺を受け入れてくれるのか。

見た目は可憐、声は図太い私、いや、俺を受け入れてもらえるのか。

国とか、研究所とかに見つかったら、問答無用で拉致られてしまうかもしれない。

もしかしたら、実験対象になってしまうかもしれない!!

頭のてっぺんから足の先まで白衣を着た研究者に嘗め回され足り、皮膚や臓器血液を採取されたり…。

悩みに悩んだ末、俺は考えるのをやめた。

「おなかが減った」

食事を買うお金がない。

だから俺はまた依頼を受けにギルドへ向かった。

魔法少女に変身することは少し気が引ける。

「なあ。」

聞き覚えのある声が聞こえた。

いやな予感は裏切らなかった。

「おい、魔法少女」

振り返ると銀髪の男が立っていた。

他人には、ギャップ萌えという性癖を押し付けてくるくせに、この男は、声も姿もギャップがない美しい男だった。

「ここで魔法少女って呼ぶのやめてくれませんか。なんだか響きが…”かわいい!!!”って感じがして。」

「自意識過剰だ」

分かっていた。俺の言ったことが自意識過剰であることは。

それでも、姿が男の時に魔法少女と呼ばれるのは気が引けたのだ。

「俺、レインって名前なんで、名前で呼んで欲しいんですけど」

めんどくさそうにこちらを見るや否や、「魔法少女レインちゃん…いい響きだ」

俺の申し出は受け入れられたものの、思惑は玉砕された。

「それで、あなたはほんとに、何者なんですか。」

「いわなかったっけ?」

「言っていません」

フーンというような表情をして、

「アルバって呼んでよ」

 

そして、何かを思い立ったかのようにして

「そうだ、レインちゃん、仲間、探さないとね」

仲間か…。つまり、パーティってとか…。

胸の高鳴りを抑えながら、想像を膨らませた。

相棒とか、友情とか、絆とか憧れるんだよなぁ。


「じゃあ、明日までに仲間、見つけておいてね。多分すぐ会えるはずだから、行ってらっしゃい」

本当に笑っているのかわからない奇妙な笑顔で、無理やり見送られた。


空腹のために依頼を受けて、その報酬で食事をしたかったのに、まずは仲間探しをしないといけないとは。


いまだアルバの正体がわかっていないが故、逆らうことが怖くてできない。


だからしぶしぶ、仲間探しに行くことになったのだった。

少々の期待を胸に。






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