冒険者、魔法少女?
ひるねま
性癖に救われる
ある日、俺は夢を見た。
魂のこもった赤い瞳を輝かした、漆黒の長い髪をたなびかす女性。
見たこともないほどの短い裾のドレス。
信じられないほどの身体能力。
街を襲う巨大生物を素手で投げ飛ばし、空からけりを入れた。
伝説の英雄ガブリエルにも匹敵する…いや、それよりもはるかに強いかもしれない。
とどめには、突如姿を現した可愛らしい杖からすさまじい強さの魔力を解き放ち…
俺は、夢の中の登場人物に一目ぼれしてしまった。
そこで、部屋に差し込む太陽の光に目を覚まされた。
どんな心躍る夢を見たとしても、現実は違った。
この国には魔法がある。しかし俺は、それを使えなかった。
使おうとするだけで激しい寒さと震えに襲われた。
魔法に適さない体がこの世には存在するらしい。
それが俺だった。
魔法が使えない人間は、この国にとってお荷物でしかなかった。
そんなお荷物な俺でも学校に通っていた。
魔法が使えなくても、学校は卒業しておけと親に言われた。
本当は卒業した後は、進学が夢ではあったが、魔法が使えない俺が、進学しても金が無駄だと言われてしまった。
俺は、家にお金を入れるために、就職することになった。
冒険者は稼ぎがいいというのが、この国での常識だ。
魔法を使えない者を雇うものは誰もいないが、冒険者は誰だってなれるのだ。
ランクによって報酬は違うけれど、貰えないということはない。
そういうわけで、冒険者以外進む道がなかった。
「カハッ」
口の中が、血の味でいっぱいだ。
体中が痛い。
冒険者になって一日目、受けた依頼はただの薬草摘みだった。
でもその帰り道、ゴブリンに襲われて、今に至るのだ。
体中の力が抜けていく。
体の中から血が抜けていくようだ。
意識も…遠くなっていく。
(ゴブリンなんかに出くわさなければ)
(こんな依頼受けなければ…)
(冒険者になんかならなければ)
(もっと俺が強ければ…)
(おれに魔法気使えたら)
(あの夢に出てきた女性みたいに強ければ…)
自分の無力さ、冒険者になったことへの後悔。
あらゆる負の感情に飲み込まれて、生と死のはざまをさまよっていた。
そして声が聞こえた。
「魔法を使いたいか?」
「あぁ」
「強くなりたいか?」
「あぁ」
「魔法少女になりたいか?」
「は…はあ?」
「なら質問を変える。生きたいか?」
「生きたい」
まだ残っている力を振り絞ってそう返事を返した。
「ならお前に力を授けよう」
次の瞬間、体が真っ黒な闇に包まれた。
生と死の狭間にいたことが嘘のように力がみなぎりだした。
さっきまではいていたズボンが、フリフリな短いドレスになっていた。
股間がスースーして落ち着かない。
そして胸のふくらみが異様だった。
『早く戦え』
直接脳に響いたその声が俺の体を動かした。
辺りを見回すと俺はゴブリンに囲まれていた。
そして地面には自分の体からあふれ出た血液が水溜まりのようになっていた。
恐ろしかった。
でもゴブリンは待ってくれはしなかった。
そして、自分の体も動き出していた。
「ぐぇぇぇえー」
「ギョエー」
数十体モノのゴブリンが襲い掛かってくる。
咄嗟に目をつむり、がむしゃらに腕を振り回した。
さっきまでゴブリンの唸り声でいっぱいだった空間は静けさを取り戻していた。
恐る恐ると目を見開くとゴブリンの死体の山がそこにあった。
地面に溜まる深緑色の体液に映る女性の姿。
夢で一目ぼれした女性の姿。
うっとりとしてその女性を見つめていると、再び声がした。
「それがお前の魔法少女になった姿だ」
辺りを見回しても人の姿はない。
でも確かに声がした。
「どういうことだ?これが俺って?この女性が?」
確かに同じ動きをしている、血だまりに移る女性。
「お前は、生きるために魔法少女になったんだ」
「少女って…。まず性別が違うのだが。そのうえ魔法だって使えない!しかも魔法少女ってね何なんだ?声だって男の声じゃないか!」
すこしの間をあけ、再び声がした。
「男なのは声だけだ。お前は魔法少女になったんだ。これからは、魔法少女として使命を果たしてもらう」
「でも、どうして声は男のままなんですか?」
俺の中の一番の謎をその主ににぶつけた。
「だって君ならいけるだろ?可愛すぎるより、男らしさの残る声、そしてその可憐な姿。萌えるだろう?」
そう性癖を押し付けた後、その声はどこかへ消え去ってしまった。
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