『無能生産者』コミュニティードヨルド編:ペトラルカさんとミーヤー※ペトラルカさんは本編その13から登場! ミーヤーは本編その25で突然やって来ます。

その1 「そして彼は豚小屋へ」

 ~~~コミュニティードヨルド近くの炭鉱場にて~~~



「働け、働け、働け~」


 作業用のツルハシを振り上げること、16時間。


 休みも与えられず、ひたすら働かされる。


 その現場の指揮を任されているパワハラ現場監督からは、常に理不尽な暴力、罵詈雑言を浴びせられ、それが普段の労働の疲れと重なり、心身ともに摩耗していく。


 このような労働を課せられ、1年が経っただろうか。


 季節の変わり目を認識する余裕がないほど、自分たちはただ道具のようにして、こき使われる。


 ここまで見た中で、あまりの重労働の末、再起不能になった連中は数知れず。


 未だに自分は、このコミュニティーにて奴隷的な扱いを受け、働かされている。


 こうなったのもすべて、世界を崩壊させたあのにっくきキメラのせいだ。


 キメラさえ、この世にいなければ・・・


 キメラさえいなければ、自分は今頃、家でのほほんとゲームしたりして、大切な家族と大切な人と共に、穏やかで誰にも邪魔をされない日常を送って、私生活を充実させていたはずだ。


 その安息の日々を壊されてから、今はこのありさまである。


 どうしてこうなった?


 足は鉛のように重く、手にも乳酸が溜まり、動かせない。


 すこしじっと動きを止めていると、



 ビシッ!! バシッ!



「おい! くそ虫ども! ちゃんと働きやがれ!」


 少しでも動きを止めると、パワハラ現場監督による強烈なミドルキックを毎度、毎度お見舞いされる。


「はいぃぃ!! 失礼しましたぁ!!」


 動かし続けなければならない。たとえ疲労骨折しても。


 何も考えず作業に従事し続けるのだ。


 必死の労働の甲斐もむなしく、年中無休で働かされた先には何の見返りもない。


「くそ虫どもは何も考えず、ただ働けばいい! 見返りなどいらん! そんなもの、くそ虫どもには必要ない! だからさっさと働け、働け、働け~」


 あと4時間。


 あと4時間でこの労働から解放される。


 今この作業場で、強制労働させられている無能生産者はみな同じ事を考えていた。


「おい! そこの女装趣味野郎! 手が止まってるぞ! 動かせ、動かせ~」


「…はい。……失礼しました。…現場監督」


 今日も自分はこのコミュニティードヨルドにて、無能生産者として強制労働に駆り出される日々を送っていたのであった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 あの日から毎日繰り返した。ひたすら強制労働に駆り出される日々。

 

 自分は豚小屋に投獄され、それからというものの無能生産者として雑務、単純労働に身を捧げる日々となった。


 コミュニティードヨルドの統領セバスティアーノと謁見し、自分を一目でみるや否や、


「こやつは無能生産者だ」


 彼にそう言われたことで、自分はさっそく豚小屋送りとなった。


 それから豚小屋で衣食住の日々を過ごすこととなり、朝は6時起床、7時までに軽く朝食を済ませてから、町へ繰り出した。


 コミュニティードヨルドの各所で様々な作業に駆り出され、朝から晩まで働く。


 朝から晩まで強制的に作業させられていることは、正直気に食わない。


 しかしこのコミュニティーに住ませてもらう以上、何らかの形で貢献し、作業に従事しなければならない。

 働かされる事自体は嫌ではあるが、コミュニティーに半ば居候させてもらっている以上、何の対価も払わずただ同然で住まわせてもらうわけにはいかず、当然何かしらのことをやらなければならないのは理解できる。


 …しかし無能生産者の立場として課せられた労働内容とその労働時間がこれまた半端ないのである。


 また作業の進捗状況もわるければ、鉄拳制裁が飛んでくる。1日16時間労働。


 皮肉にも無職だった自分の就職先はこんな劣悪な環境となってしまった。


 日々働き詰めにされ、休息のひと時はほとんどなかった。これを毎日繰り返すのだ。…まるで社畜だ。


 自分たち無能生産者は常に限界をゆうに超えるオーバーワークを義務付けられ、有能コミュニティー民の生活を支えるための犠牲となっているのが現状である。


 無能生産者に課せられた業務内容とは、主にコミュニティードヨルド中の建物や道路などの大掃除に始まり、水が流れない一軒一軒の家にお邪魔し、トイレに詰まった糞尿の回収、風呂を沸かしたり、その風呂を沸かすための薪を危険な壁の外からの大量調達、壁の拡張による資材の運搬、あとは生ごみなどのゴミのたぐいを焼却施設に運ぶなどが挙げられる。


 他にもこれ以外に不定期ではあるが、近場の炭鉱へと向かわされ、ひたすら石炭を取らされたり、鉱山資源を取るために、つるはしでひたすら硬い岩や土を掘り起こす作業などをさせられている。


 ……正直この労働が強制労働の中で、1番肉体的にも精神的にもこたえる労働だった。


 このような不定期な炭鉱や鉱山での労働と共に、主にコミュニティー内のインフラ関係ともいうべき力仕事を無能生産者はやらされている。


 そんなコミュニティーの、所謂、有能生産者の生活を下支えするために自分らは存在している形となる。


 一つの現場を終わらせても、また別の現場。休憩も満足に取らせてもらえず、ひたすらパワハラ現場監督らを主導にコミュニティー中を引きずり回される。

 …まるで市中引き回しである。


 コミュニティーに住んでいる有能生産者は、まるで自分らを罪人を見るかのような目つきで、自分たちがコミュニティー中をあっちこっち往来する姿を傍目から見ているのがわかる。


 コミュニティー全体をまわれば、今日の仕事はおしまい。それをまた明日、明後日、明明後日しあさっても。


 この作業は永遠に終わることはない。


 一難去ってまた一難のように、半永続的に終わりのない作業だ。


 無能生産者でもできる仕事。頭をつかわず、ただ手足を動かしているだけで事足りるような仕事。


 少し複雑で、ある程度スキルを必要とするような仕事は無能生産者の管轄ではない。

 スキルがあって能力のある人たちは有能生産者として、統領セバスティアーノに認められる。


 有能生産者は(医者、電線作業員、鍛冶工)などのなんらかのスキルを持ち合わしている者。


 また専門的なスキルを持ち合わせてなくても、何らかの頭脳労働、または身体能力に優れた者。


 そうしたものたちはみな有能生産者として、セバスティアーノにみなされ、コミュニティー内での快適な生活を約束されている。


 目を見張るような才能も、潜在能力などの伸び代もない人間。

 その人らは漏れなく無能生産者となり、虐げられた生活を送ることになる。


 仮に自身には隠された才能があるとおごり高ぶったところで、統領セバスティアーノにその隠れた才能自体を認められなければ、即刻無能生産者行きとなるのだ。



 日が暮れ、コミュニティードヨルドを一日かけて全域を回ったところで、ようやく長い一日が終了した。


「作業終了! 各自さっさと豚小屋に戻れ! いつもながらシャワーを浴びられるのは、ひとり30秒まで。30秒以上浴びたものは、飯抜きだ。忘れるな!」


 パワハラ現場監督のそのいつもの一言を皮切りに、みな一同それぞれの持ち場から離れ、コミュニティーの端に位置する豚小屋まで、走って戻らされる。


 …徒歩での帰還は当然許されていない。


「お前ら、くそ虫ごときがシャワーを30秒享受できるだけでもありがたく思え! 走れ~、走れ! 遅れた奴はシャワーも飯も抜きだ!」


 そしてここから10分程の距離にある豚小屋へと戻る。


 戻るやすぐにシャワールームへと無能生産者一同は直行するのだ。


 パワハラ現場監督の言いつけ通りに、1人30秒まで冷水のシャワーを浴び、後ろで列をなし待機している者に、その場を順次明け渡す。


 シャワーを浴び終えた無能生産者らは全員、1階にある飯部屋に集められ、各自給仕係によって今夜の分の飯が配給される。


 PM 11時16分。やっと本日分の夜食にありつけた。

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