第12話 統領セバスティアーノの謁見
中に入ると、その邸宅内は外同様、内装も豪華だった。
金ぴかな塗装にレッドカーペットが敷かれ、まさに金持ちの屋敷そのものだ。
シャンデリアもまばゆいほどの光を放ち、平民身分のベルシュタインは終始そのすごさに圧倒される。
そしてつかつかと屋敷を歩いていくセバスティアーノについていくと、やがて応接間とおぼしき部屋へ案内された。
応接間に入る。肝心の内装はと言うと、これまた国賓をパーティーのゲストとしてお呼びするレベルの豪華なもので、もう言いようがないほど素晴らしかった。
その部屋のすごさっぷりに唖然としていると、セバスティアーノがとある一角に置かれた椅子に腰かけ、それを見て自分も一言断ってから、もう一つ用意された席の方に座った。
「どうだね? 座り心地は?」
そう彼に問われるものの、「すごいですね」との一言だけ、自分は述べるのに留まった。
「具体的にどうすごいのだ? 教えてくれたまえ」
さらに彼からそう問われるも、
「いやーただすごいですね………。とにかくすごい…」
セバスティアーノに具体的にどうすごいのかと問い詰められていたが、それに対してまったく要領の得ない返答を自分は返してしまっていた。
その自分の様子にセバスティアーノはくすりとも笑わず、全く表情を変えぬまま黙ってそれを聞いていたのである。
「……まあいい。……そろそろ本題に入るか」
そう言うとセバスティアーノは、ここまでの経緯と自分自身がどのような人生を過ごしてきたかについて深く尋ねてきた。
自分は拙いながらも、かつて大学で模擬面接をしたときの事を思い起こし、その時の要領で自分自身のありったけのエピソードを話していった。
…しかしながら模擬面接ですらうまく自己アピールできず、エピソードトークもできず、そもそも模擬面接時の場においても、一言も一切口に出てこなかった自分がこの期に及んで、急に言葉巧みにしゃべくりするなんてことができるはずもなかった。
それでもたどたどしくはあったものの、なんとか言葉をつむぎだし、言葉も選びつつ、最後までしゃべりきることができた。
その自分の話にセバスティアーノは終始、頬杖をつき、話半分にしか聞いていない様子だった。
…まるで自分の話など鼻から興味もなく、聞く価値がないとまで言いたげな態度にベルシュタインは内心腹を立てていた。
そしてこちらから話せることは全て出し尽くし、自分は口を閉じた。
…セバスティアーノが再び口を開くまで、しばらくの間、その部屋には沈黙が続いた。
「……ん? ああ、話はもう終えたのか?」
そう聞かれ、うなずく自分。
セバスティアーノが自分を全く相手にせず、聞く耳を持っていなかったのは明白だった。
「やはりお主は吾輩の見立て通り、無能生産者のようだ。はじめてお主を玄関先で見かけた時からずっとそう思っておったわい」
無能生産者? なんだそれ? 自分にとって聞きなれない言葉だ。
「お主が無能生産者である以上、このコミュニティードヨルドに居住する際の待遇をよくするわけにはいかぬ。……お主は今日から強制労働に従事してもらう」
待遇? 強制労働? なんの話だ? そのことを言われてもピンとこず、自分はぼっ~としていると、
「これだけ言われてもまだお主の置かれている状況が理解できぬようだな。
やはりまごうことなき無能生産者じゃ。お主はこのコミュニティー内では全くの役立たず。よって役立たずには過酷な労働を課すのだ」
「え? え? え? …それってどういうことでしょうか?」
「もういちいちお主のような無能生産者に事のあらましを説明するのも面倒だ。言葉も通じぬ無能はきらいじゃ。
手短に言う。お主はこの先ずっと、このコミュニティードヨルドのために働き、根を上げることなく、生涯をこのコミュニティーのために捧げるのだ。
もしその仕事に耐えられず、根を上げるようなことがあれば、お主を外に放り出す。そういうことだ。…ほらさっさと連れていかんか」
セバスティアーノの一言を合図にして、彼の背後からはニョキッと2人の男が急に現れた。
その連中にむりやり腕を背後から捕まれ、自分はその部屋を退出させられてしまった。
「ちょっと待ってくださいな! なにが無能生産者なんですか? 自分が? この自分がですか!?」
しきりに騒ぎ立て、バタバタと魚のように暴れていると、その言い分に腹を立てたのか……、連中は自分の腹に思いっきりボディーブローを放ち、次にこのように言い放った。
「何回もそうだって言ってんだろ! やはり無能生産者は自分が無能であることすら自覚できないのだな! やはり統領セバスティアーノ様の言う通りだ!」
「そうだね~、そうだね~♪ へへへへ~い♪ はやくこのゴミをあの豚小屋に連れていこう~♪ あの無能生産者どもがこぞって収容されてるあの忌々しき豚小屋に~♪」
「あんなところに収容されている連中はかわいそうでかわいそうで見てられないな!死ぬまで俺ら有能生産者の踏み台となって人生を全うすることになるなんてな!」
「「ガハハハハ!」」
二人の大男に連れられた先は、コミュニティードヨルドの端の端に位置するまるで豚小屋と呼んで差し支えない汚らしいおんぼろな宿舎だった。
遠目に見てもその周囲の街と比べて異様さが際立つくらいだ。
「「無能生産者一匹、ご案内~♪」」
その二人の息の合ったハモリとともに、その豚小屋と呼ばれる施設に連れ込まれ、自分はそこに放り込まれてしまった。
ガチャン!
「じゃあな! 無能生産者! そこでせいぜい余生を過ごすのだな!」
「お疲れ、お疲れ~♪ へへへへ~い♪」
そして鍵までかけられてしまった。
「待ってくださいよ! ちょっと! あんまりだぁ! こんなところに閉じ込めておくなんて!」
その日からというものの、自分はこのコミュニティードヨルド内で過酷で地獄のような労働生活を余儀なくされた。
自分の意思は全く聞き入れられず、日々コミュニティードヨルドのために強制労働をさせられ、心身ともに疲弊していく毎日を送る羽目となったのである。
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