第9話 パーティーゲームソフト
ドロシーさんとスタッフルームを出た。……キメラの様子は今のところ確認出来ない。
ドロシーさんと自分は、辺りの警戒を一切怠ることなく、足音をできるだけ立てずに、食料品コーナーを抜け、ショッピングモールの廊下へと抜けた。
ここは1階フロア。このショッピングモールは1階フロアと2階フロアに分かれていたはずだ。
1階は食料品、レストラン、雑貨店。2階は服屋、家電、家財道具の店舗があったはず。
自分は目当ての食料品を入手したので、もうこれ以上望むものは何もなかった。
あっでもそういえば、家電売り場が2階にあるんだった。……つまり、
「ゲーム取りたい放題じゃないか!! 来た来た来た~!」
「うわ! びっくりした! いきなり横で大声を出さないでくださいよ! …その声を聞きつけて、キメラが来ちゃったらどうするんですか?」
「はっ!! ご…ごめんなさい。以後、気を付けます!」
自分は慌てて、ドロシーさんに頭を下げた。
「ベ…ベルシュタインさんは、ゲームが欲しいってことですか?」
「はい。そ…そうですね…」
「ならわたしも2階に行く用事があるんで、今から一緒に行きませんか?」
「はい! …よ…喜んで!」
とのことで、自分とドロシーさんは2階へと向かうことにしたのである。
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そして家電売り場へとやって来た。
まずはさっそくゲームコーナーに向かったが、陳列棚にはわずかばかりのゲームソフトしか置いてなかった。
据え置きゲーム機に至っては、跡形もない。
……すべて盗難にあっているものと思われる。
「やっぱこのご時世だったら、そうなるわな~」
インフラ施設は軍隊がちゃんと守ってくれているおかげで、電気水道も問題なく動いている。
電気がちゃんと通っているため、自宅ではいくらでもゲームをすることができるのだ。
ただしあまり政府からは、ゲームをすることは電力の無駄遣いにつながるため、自粛を願いたいとのことだったが、そんなことお構いなしに自分はゲームを1日中ぶっ通しでやり続けている。
…こんなの自分だけじゃない。…み…みんなやってることなんだ。
だってあくまで自粛をお願いされているだけ! …なんだし。
「じゃあわたしは、このソフトにします」
ドロシーさんは棚からゲームソフトを1つ手に取った。
それはパーティーゲームのジャンルで、大人数もしくは2人以上でやるゲームだ。
「それって、家族の人達と一緒にやる用ってこと?」
さりげなく聞いてみる。
「いいえ」
「じゃあ1人でこのあと家に持って帰ってやる用?」
「いいえ」
ドロシーさんはまた首を横に振った。
「これはベルシュタインさんの家で、このわたしと一緒にやる用です」
「え? この自分と?」
その言葉を聞き、思わず耳を疑った。
自分と一緒にやる? 自分って僕? 僕って自分? …いかんいかん! 頭がこんがらがってきた。
「え? ということは、ドロシーさんは…」
「はい。ベルシュタインさんとこのあと一緒に帰るつもりです。…だめですか?」
心外だった。まさかドロシーさんが自分の家まで一緒についてくるつもりだったなんて思いもしなかった。
「あれ? でもさ…ドロシーさんにも帰るお家があるでしょ? 家族だっているんじゃ…」
ドロシーさんには当然帰る場所があるはず。
そこをわざわざほったらかしにして、自分の元に来るなんて。……何か妙だった。
なぜ家族を放っておいて自分を選ぶ? …ドロシーさんは親喧嘩でもしたのだろうか?
家族とは仲たがいし、反発して、家出している最中なのだろうか?
……つまりドロシーさんは家出少女? ……家出少女ということになる。
「お…お願いです! 家に泊めてもらえませんか!? …じ…実は、わたしにはもう家族がいないんです。…家もなくて」
ドロシーさんは自分の言葉を途中で遮り、急に頭を下げてきた。
…それまでは、なぜドロシーさんが自分の家にお泊まりすることにこだわっていたのか? 全くわからなかった。
しかしその事情が分かった。もちろんドロシーさんを家に泊めてあげたいのは山々なのだが、しかし…
「えええ! そうだったの!? …でもいきなりそんなこと言われたって、こっちは困るよ!
今日知り合ったばっかりの女の子を家に泊めるなんてさあ…ちょっと抵抗があるって言うか…」
「だ…だめですか? …ベルシュタインさん」
自分がそんなことを言うものだから、ドロシーさんの表情は大変険しくなってきた。…今にも泣きだしそうなくらいに。
「いやいやいや! ダメってことはないよ? 全然オッケー! むしろ大歓迎だよ!」
自分は慌てて、さっきの言葉を取り消し、暗く落ち込んでいたドロシーさんを励まそうと努力した。
お…女の子の泣いている顔なんて、見たくないからな!
「…それならよかったです。…わたしにはもうベルシュタインさん以外に頼れる人が居ないんです」
「お…おう。そ…そうなんだ~」
一瞬、胸がドキッとした。
ということで自分にはもれなく、この緑髪の家出少女が食料物資のおまけとしてついてくることになった。
つまり自分は今、リュックサックに詰め込んだ物資と、隣にいるドロシーちゃん両方をお持ち帰りできることになったのだ。
…まじか…。ふ…震えが止まらん!
まさかの展開だった。お互い初対面なのに、こんなことになろうとは…。まあドロシーちゃんが訳ありってこともあるけど…。
と言うことは、これから実家には自分を含め、2人以上の人間が住み着くことになる。
自分が手に取るべきゲームは、すでに決まっている。
「じゃあ自分はこれにするよ」
自分が陳列棚から手に取ったのは、もちろんサッカーゲーム。家にあるサッカーゲームの制作会社とはまた別会社のソフトだった。
…家に帰ったら早速ドロシーちゃんに、長年鍛えに鍛えたサッカーゲームのスキルとノウハウと言うものを見せつけてやる!
こうして自分とドロシーちゃんは別々のゲームをそれぞれ手に取ったところで、家電売り場を出た。
「それじゃあ次は、服屋さんに寄っても良いですか? …時間は取らせませんから」
断る理由はなかった。自分とドロシーちゃんは2人駆け足で、その服屋のコーナーへと向かったのである。
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「う~~ん。どうしようかな~? あれでもないし、これでもない」
……嘘だった。ドロシーちゃんはさっき「時間は取らせませんから!」と言っていた。
……真っ赤な嘘だった。
どうやらドロシーちゃんと自分との時間感覚には、かなりズレがあるらしい。
スマホの時計を見てみると、すでに20分少々経過していた。
すぐ済ませると言われたから、せいぜい5分程度で終わるんだろうと思っていたのに。
……嘘だった。
「あ…あの~、ドロシーちゃん? そろそろ…」
「え? 何ですか? ベルシュタインさん? …よく聞こえません!」
彼女は今、試着室の中に居た。どうやら鏡とにらめっこしながら、いろんな服を試し着しているようだ。
正直なところ、彼女を急かしたい気で満々だった。嘘だろ…。こんなの詐欺じゃん。
ドロシーちゃんの嘘つき!
…女の子の「時間は取らせません」は、今後一切信用しないことにした。
そうこうしているうちに、ドロシーちゃんはやっとのことで試着室から出てきた。
「ごめんなさい! 時間がかかってしまいました」
「いや! 全然そんなことないよ。……それに服似合ってます!」
内心煮えたぎるくらい彼女には待ちぼうけを食らわせられたが、ドロシーちゃんに免じて、今日のところは許してやろう。
ドロシーちゃんは紺のTシャツにカーディガンを羽織り、白のジーンズを履いた格好で、その試着室から出てきた。
「…それって…本心で言ってます? …お世辞じゃないですよね?」
「そんなことないよ。…じゃあ早いとこ、ここから出て、家の方に向かおうよ」
「…はい。…よ…よろしくお願いします」
改めてそう言われると、照れくさく感じる。
ドロシーちゃんは他にも今、着用している服以外に何枚も上着なりズボンなりをバッグに入り切らないぐらい、手に持っていた。
「なんだったらその中から何枚だけ、持ってあげようか? …なんか持ちにくそうにしてるし」
明らかにドロシーちゃんは持ちにくそうにしていたため、自分は親切心でそう言ってみた。
「そ…そんな…いいですよ。…1人で持てます」
「遠慮しなくていいよ。ほら、まだ僕のバッグには空きがあるから、ここに数枚だけでも入れていきなよ」
自分はバッグを一度、床に下ろし、ファスナーを開けた。
「ほらほら。そこの…タンクトップ? スウェット? っ的なやつ? …ここに入れていきなよ?」
「はい! …じゃあこのグレーのタンクトップに、藍色のスウェットを…。
…お願いしてもいいですか?」
「いいよ! その2枚だけと言わず、他にもまだまだ入れていいよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて……あとこれとこれもお願いします」
そして黒い雨玉模様のワイドパンツと赤色のスカートも渡され、自分は丁寧にそれらをリュックサックにしまった。
…くしゃくしゃに入れたりせずに…。
自分の着る服なら、雑に折り畳んでくしゃくしゃにして入れてやるが、女の子の服をそんなに雑に扱っちゃあダメだろう。
これからは1つ屋根の下で、お互い暮らしていくのだから…。そうした配慮も今後できるようにしておかなければならない。
よし! これからはこのドロシーちゃんにふさわしい男となるべく、男力! を徹底的に磨き上げていくぜ!!
そう心に誓った。
ドロシーちゃんと1つ屋根の下で、あんなことやこんなこともいいな。それにあんなことや、こんなこともやりたい!
デュフフフフ……想像するだけでよだれが。…ジュルリ。
「ベルシュタインさん? なんか口からよだれ……が出てますよ?」
「ん? …ああ! ごめんごめん! つい……」
「つい?」
「いやいやいや! な…なんでもない!」
自分は急いで垂れてきたよだれを右手の甲で拭った。
そしてよだれで濡らした右手の甲をズボンにひたすら擦りつける。…懸命に、懸命に。
先程まで、あまり健全的でない想像をしていたのを忘れるかのごとく!
必要以上にズボンの右の裾に、手の甲を擦りつける。
ゴシゴシゴシ!ゴシゴシゴシ!
「じゃ…じゃあ! さっそく行こうか!」
「…は…はい……」
ドロシーちゃんは、もじもじとまた服の裾を引っ張りつつ、そう答えた。
そして素直に自分のあとをついてきてくれた。……本当におとなしくて、いい子だった。
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