第6話 ショッピングモールへGO!

 異変から約1週間と4日が経過した。


 母さんは未だ帰って来ていない。


 電話をかけても折り返しがない。


 特殊清掃員を5年もやっていた母さんの事だ。世間がこうなってもどこかで生きながらえていると思うが…。


『ただいま我が国では、外出禁止令が発令されています。不要不急の外出を即座に控え、自宅待機してください。繰り返します…』


 町にはあれからというものの、街宣車がひっきりなしに走っている。

 スピーカー越しに不要不急の外出を控えるなり、自宅待機をするようにと盛んに呼びかけていた。


 今まさにSFのパニック映画みたいなことが起こっているのだ。


 自分はよくゾンビパニックものの映画を見漁っていたので、その映画でのイメージもあって、現実の世界もあっという間に、1日やそっとで崩壊するものだと思い込んでいた。


 しかしいざ蓋を開けてみると、全くそんなことにはなっていない。

 電気や水道も全く止まることはなく、部屋の電気もちゃんとつくし、蛇口からもちゃんと水は流れている。


 テレビもちゃんと映るし、ツイッターやインスタもちゃんとつながっていた。


 道路交通機関も一部は制限され、運行を見合わせているところもあるが、それでも完全に機能停止に陥ることにはなっていない。

 しかしながらヨーロプア大陸全体は無法地帯と化しており、どこもかしこも強盗、強奪が頻発している。


 テレビは最近どれもキメラの被害によるニュースしか流さなくなっていた。


 だれが亡くなったのだの、今日の被害者数は数百、数千など、そればっかりだ。


 日に日にその死傷者数が増えていることに、驚きを隠せないが、おそらくそのうち世間はまた元の日常を取り戻す。

 死傷者数もいずれどこかのタイミングで高止まりして、そのうち減少傾向に入るだろう。

 この頃の自分はこれらのキメラ騒動に対し、一時的にみんなが騒いでいるだけで、すぐに終息する。そういうものだと思っていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



『まいどどうも~。イノセントTVの時間だよぉ~! 今日はみんなお馴染みのテンペセト駅前に来てみたぜ~』


 その動画投稿主は、テンペセトの繁華街を映し出している。


『へいへい!! 見てもらった通り、俺たちのホームグラウンド、飲み屋街は今日も閑古鳥かんこどりが鳴いているよ~。どこ見渡しても、営業してないわ~』


 その繁華街のどの店もシャッターが下ろされている。


『おお!さっそく人を発見! 人肌が恋しいこの季節! さっそく取材を敢行かんこうしたいと思います!』


 動画投稿主は、すかさずその男女のカップルに対し、近寄っていく。


『ど~も! イノセントTVのオマリーですぅぅ』


『あっ!オマリーさんじゃん! やっほー!』



『今日はどうしてこの街を出歩いているのぉ~?』


 すると彼女の代わりに、連れの男がそのオマリーの問いかけに答える。


『いや~今日ツイッターを見てたら、とある店が営業します~とつぶやいていたんで、それで今日こいつとそこの店で一緒に飲もうと思って。

 今その店に向かってる最中なんすよ~』



『おおぉ~~!! それは大変危ないヨォ~!! 外出禁止令が発令中なのに、不用意に外に出ていいのかぁ~ !警察、軍隊の人に見つかったら、大変だよぉぉ~!!』


『そんなオマリーさんも、外出してるじゃないですか。スマホ片手に』



『あっ!ホンマですわぁ~~、うっかり!』



『『『ハハハハハハ!』』』


 その場に居た3人はそのオマリーの渾身のギャグを見て、一斉に笑い出した。


 そして動画投稿主とそのカップルたちは、話の流れそのままに、その営業しているとされる店へと同行していったのであった。



『まいどどうも~! イノセントTVのオマリーですぅぅ!!』


『おお! オマリーさんじゃないですか! いらっしゃい!』


『どうして今日は営業しようと思ったのぉ~?』


『世間ではね~キメラだとか言って、騒いでますけど、あんなの別に大したことないんすよ。全然危なくもなんともないんすよ~。だからこうして今日店を開けようって、思いましたぁ~』


『なるほど、なるほどぉ~!』


『毎日、死傷者数千とかテレビで言ってるじゃないですか? けど俺の知り合いで、誰もそのキメラに襲われて死んだ! なんて1回も聞いたことないんすよ!』


『わかるぅ~~!! それわかるわぁ~~!!』


『でしょ? だからこのご時世であっても、店開いても大丈夫なんすよ!! そんで今日思い切って、ツイッターで営業するって拡散しといたんです!!』


『いいねぇ!! 店長のその心意気、最高ぅぅ~!』


『常連さんもみんなもこうして集まってもらってるんで、今日はパーッと飲みましょう!!』


『イエ―イ!! ということで、イノセントTVのオマリーもみなさんと一緒に、楽しんじゃおうと思いますぅぅ~!!』


『最高~! オマリーさん~!! じゃあ店長! 早速わたしも注文しちゃうよ~。まずビールを1つ! それから…』



『はいよ! じゃんじゃか他の方も言ってちょうだいね~』


 飲み屋の店長は、その店に集まった1人1人の注文を聞いていった。そんな時だった…


 ドゴーーン!!


 その店には爆発音が突如鳴り響き、その場に居た全員がその爆風に巻き込まれた。


 ……動画の尺はそこで終わっていた。


 メディアもこの一連の事件を盛んに取り上げ、今回の事件はキメラ生物の危険性を執拗に訴えるネタとして、しばしば用いられるようになっていた。



『今日、店を開けます』



『BAR ミッシェル営業します』



 ツイッターやインスタではそのようなつぶやきが盛んになされていた。


 そのコメント欄にはいろいろと多種多様な返信がなされていた。



『このご時世で何考えているんだ!!』



『やめとけ! この前も近所の店がキメラに襲われて、その店に居た人が全員死んだぞ!』



『さっさと死んでどーぞ』



 など誹謗中傷の声が多数を占めていた。


 世の中がこんなことになっても、外出をする人は一定数いる。


『バカが出歩くから、被害が増すんだよ!! いい加減、この状況を理解しろ!!』



『また大勢死んだぞ。今度は街中で、ロケット花火で遊んでいたところを襲われたらしい』



『また病院が襲撃されたらしい。患者もろとも全員死亡だってさ』


 とそんなこんながあり、街中まちなかを出歩く人はだんだん減ってきたようではある。

 自分の住む町は、すでにゴーストタウン化していて、人の行き来がすっかりなくなった。

 キメラも未だに少なからずこの町をうろついているが、こうして家に閉じこもっておけばまあ大丈夫だと思う。


 このようなパニックがゾンビ映画みたいな結末を迎えるはずがない。

 どうせ次第に終息していくはずだ。

 世間で大騒ぎになっているのも今だけのこと。


 そもそも数万年ちょっとの歴史を誇る人間社会が、たかがちょっとしたパニックで、あえなく崩れるほど、もろいものじゃない。


 ゾンビパニックでいとも簡単に崩れ去るほど、人間社会は弱くないのだ。

 そんなパニック程度で滅びてしまうなら、人間の時代はとっくの昔に終わっているはずである。

 パニック映画は嘘ばっかり。あくまでも虚構の域を出ないものに過ぎないのである。


 ネットやインフルエンサーの情報によると、どうやら国の軍隊がインフラを厳重に守ってくれているらしい。


 その一帯に戦線を張り巡らして、死守しているため、電気や水道の供給が今でも滞ることなく、どの家庭も普通の生活を送れているらしい。

 軍隊が本気を出せば、キメラからインフラを守ることくらい、お茶の子さいさいなのだ。

 人類は強かった。決してSF映画でよく雑に扱われているような弱小な存在では決してなかったのである。


 だから自分はいつも通り。このようにして、相変わらずサッカーゲームに懲りず、興じていた。


「よし! シュートだ。インダスティン!」


 バコーン!!


 インダスティンの放ったシュートは一度キーパーにはじかれたものの、そのままゴールラインを割った。


『ゴール! FCオールダイナマイツの追加点! これで3対1!』


「うぇ~~い!! さらに突き放していくぅぅ!!」


 オンライン対戦も家の電気自体は通っているため、問題なく行えた。


 しかしながら以前と比べるとマッチング率は悪くなっていた。

 それでも一定のプレイ人口がいたため、未だにこうして部屋で1日中サッカーゲームを楽しむことができる。


「はいはいは~~い! 楽しいぃぃぃ! イエーーイ!」


 今日は絶好調。

 自分は嬉しさのあまり、自室でコントローラ片手に踊り狂っていた。


「今日の自分、最強ぅぅ~~! 負ける気がしね~ぜ~!」


 しかしその後の試合は立て続けに負け、怒涛の6連敗を喫してしまった。

 またしても自分はコントローラに対して、負けるたびに、八つ当たりをかましていたのである。



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 異変が起こって3週間目に突入した。

 ……依然状況は変わらない。

 電気も水道もまだ問題なく動いていたが、肝心の食料が底を尽き始めたのだ。

 サバ缶を大量に詰めたダンボールも残すはあと1箱分となった。


「そろそろ食料調達に行くべきか……」



 ここまで外に出たのは、父を裏山に埋めた時のみ。

 このまま家に引きこもっていては、ジリ貧となるのは目に見えていた。

 3週間目に突入してからは、ゲーム自体はちゃんと起動するものの、オンラインマッチング率は極端に悪くなっていた。


 それは1時間に1試合できるかどうかのレベルになっていたのだ。


 そしていざマッチングし、試合ができても、突然お相手の選手がピタリと止まって動かなくなったり、突然回線が切断され、強制的に試合が終わると言ったことが頻繁に起こるようになった。


 そんなこともあって、自分はオンライン戦で勝ち続けた結果、ついにこのサッカーゲームで40連勝を叩き出すことが出来た。

 しかもランキングは今現在、暫定世界1位をマーク。

 ……勝率も8割強といった大記録を樹立していた。


「でもなんかつまらんな~」


 そんなことを思いつつ、常に頭のことは、今後の生活のことばかりを考えていた。


 この町には配給も何もない。都心の方では政府からの配給があるらしいが、ここには一切そんなものはなかった。

 ただ通るのは街宣車のみ。そんな街宣車も3週間目に入ったところで、一切見かけなくなった。


 母さんが残してくれたサバ缶がまだ残っているうちに、食料調達に出かけた方がいい。

 ここにきてやっと、外に出る決心がついた。目指すは近場のショッピングモール。

 そこで大量の物資をかき集め、五体満足で家に帰ってこよう。


 ようやくゾンビサバイバルさながらになってきた。なんだかこれから冒険をするみたいでワクワクしてくる。


 デュフ、デュフフフフ……


「よし。準備オッケー。リュックサックにスコップに、携帯に、非常食用のサバ缶。……よし!」


 自分はそれら一式を装備した後、ひさびさにあれ以来、家の外に出ることになったのである。

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