第5話 さようなら…父さん
翌日、また翌日とも消臭剤と消臭スプレーを手に持ち、裏山へ向かった。
いつものように消臭剤とスプレーを父さんの遺体にぶっかけてから、穴を掘る。
しかしそのような作業を繰り返し、3日目に入った時点で、消臭剤も消臭スプレーも全部なくなってしまった。
このままでは腐敗がさらに進み、キメラ生物に父さんを発見される可能性が高くなってしまう。
そこで自分が考えたのはコショウを消臭剤代わりに使うことだった。
昔、歴史の授業で、食肉を保存するために、中世の人はコショウを使っていたことを学んだ。
大した保存料がなかった時代、代わりにコショウを使って食肉などを保存させていたらしい。
そのことを今になって急に思い出したのだ。
幸い、1階の冷蔵庫にはコショウの入ったガラス瓶が大量にある。
なぜこんなにもおびただしい数のコショウ瓶があるのかというと、これも母さんの仕業だ。
母さんは重度のコショウコレクターで世界のありとあらゆるコショウを買い集めては、冷蔵庫に押し込んでいた。
そのせいもあって、いつも我が家の冷蔵庫には、食材を入れるろくなスペースがない。
そのため我が家には母さんのコショウのコレクション専用の冷蔵庫ともう一台、ちゃんとした食材をいれるための冷蔵庫の2台があるほどだ。
そんな母さん御用達の冷蔵庫があるにもかかわらず、もう1台のちゃんとした冷蔵庫の方にもたびたびコショウ瓶に侵食されていた時もあった。
そんなこともありコショウの備蓄だけは腐るほどある。
以後の父さんの埋葬作業には、コショウをその遺体に振りかけ、腐敗を遅らせてから、スコップで裏山の土を掘ることにした。
そうして4日目にして無事父さんを埋葬することが叶ったのである。
最後に父さんの顔に土をかける際、涙が溢れてきた。
最後の別れを惜しみ、すっかり硬直してしまった父をなかなか埋め切ることが出来なかった。
しかしそれでも心を鬼にして、父とは永遠の別れを告げたのであった。
4日間に渡る命がけの埋葬作業を終え、一度たりともキメラ生物には遭遇することなく、無事に生きて家に戻ってこられた。
父を埋め、大仕事を終えた自分。
それからは母さん専用の冷蔵庫の横に大量に積まれた段ボール箱の中にあったサバ缶を口にし、来る日も来る日もそれで食いつなぐ日々を過ごしていた。
サバ缶収集もまた母の趣味だ。
おそらく2週間はもつだろう。母さんにはなんとお礼を申しあげていいのかわからない。
もしこのサバ缶がなければ今頃自分は食料を求めて、町に繰り出さずを得なくなり、やがてキメラに襲われて、あっけなく死んでしまっていただろう。
しかし4日間も、1人こうして家に居続けなければならないのは、少々心細い。
母さんは4日経っても、家に帰ってきていない。
いざ母さんが帰ってきたときのことも考えて、母さんの分のサバ缶を取っておく必要もある。
そんなこともあり、未だ帰らない母さんのことを思いながら、2階の自室でテレビゲームを片手間に、自分はちょびちょびとサバをつまみつつ、母さんの帰りを待っていたのである。
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