少年兵は恐れる ①
ロエンはガタガタと震えながらエブランの後をついて城の廊下を歩く。
何で──何で、みんな、あんな奴を、あんな奴に、平気なんだ──
やや下前方、先輩のかかとに落としていた視線を上げて広い背中を見たが、彼からは怯えた様子は伺えない。
むしろ──むしろあの黒髪のガキに『お目通り』だかできて喜んでいるような気がする。
「……なあ」
「何だ?」
「……あんたら、あいつ怖くないのか?」
「あいつ?」
「あの、アー…アーウェンとかいう、もらわ」
最後まで言い切る前に、ロエンの体は今来た廊下を後ろに吹っ飛ばされていた。
殴り飛ばされたとも違う、何かの衝撃が全身に叩きつけられたことだけはわかったが、それが何故かが理解できない。
だが答えはすぐに返ってきた──見たこともないほど厳しく睨みつけられることで。
「……アーウェン様は、れっきとした貴族家のご子息だ。確かにターランド伯爵ご夫妻のご実子ではないが、一族から分家された遠縁の男爵家の末子で、王都からご領地へご帰還されたんだ」
「そっ……」
てっきり孤児院か何か、親のない魔力持ちだから引き取られたのだと思っていた。
だから自分よりもみじめで、憐れで、だからご領主様が猫の子を拾ってくるような、もしくは『貴族の善行』として連れてきたのだと思っていたのに。
まさか本当に貴族の息子で、しかもご領主様と縁続きだなんて──
「そんな……そん、な……俺っ……」
「だから言葉には気を付けろと言っただろう!アーウェン様は……とにかく今までの言動も含め、お前はしばらく謹慎だ。自分の家でアーウェン様に取った態度を反省しろ。もっとも……」
「………っはい」
ロエンは口を引き結んでうなだれたが、エブランは睨む力を弱めない。
「アーウェン様はお前が戻るのを期待されるだろうが、ご領主様がそれを許可されるかどうか……」
「…………っ……は…い……」
望んでこの城に来たわけではないが、追い出されるとは思っていなかった。
あんなに帰りたかった祖父の住む家だったのに、今は足が進まない。
エブランが言った通り伝令役の者が、ロエンのような訓練兵を含む兵たちが暮らす宿舎の方へとやってきて、ご領主様から「しばらく自宅にて待機するように」と伝えられた。
とりあえずと持ってきた着替えを纏めさせられはしなかったが、素振りで使っている木剣などの持ち出しは逆に禁じられ、軽いナップサックを手にした状態でロエンは城を出されてしまったのである。
何故か先輩兵のエブランが付き添ってくれているが、ロエンを家に届けたらすぐに戻ってしまうに違いない。
──それが少し怖かった。
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