少年は外出を許可する ①
不貞腐れたままのロエンは何度も先輩兵に小突かれつつ、アーウェンに外出の許可をもらうための口上を述べた。
「……で、祖父ちゃんに会いたいから」
「祖父に会いたいため」
「イテッ…そ、そふ、に、会いたいため……」
「ほら、ちゃんと言えよ」
「クッソ……その、じ…違った。そふ、に会いたいため、その…帰らせ…帰る許可を出せっ」
「帰宅の許可をいただきたく、だ!」
「イッテェ!何度も同じとこ殴んな!」
「お前がちゃんと礼儀を守らないからだろうが!」
「何で俺がこんな弱い奴に
その瞬間、ロエンの頭に拳骨ではなく、頬を張り飛ばされた。
「申し訳ございません、アーウェン様。今のこのロエンの帰宅願いは取り消させていただきます」
「え……」
呆然としたのは殴られたロエンだけでなく、ここまでの一連をずっと見せられてきたアーウェンもである。
ちなみに後ろに控えるカラは何とも思わない表情で、静かに立っているだけだ。
「で、でも……」
「いいのですよ、アーウェン様」
「でも……」
アーウェンがロエンを連れてきた兵に向かってオロオロと手を伸ばして、何故ロエンの希望を取り下げるのか聞こうとしたが、さらに同室していたロフェナも落ち着くようにとアーウェンの肩を優しく擦る。
「ご当主様を始め、奥様、アーウェン様、エレノア様、そしてこちらにはいらっしゃいませんがもちろんリグレ様に対して、私たち使用人一同、領兵、王都で留守をお守りしている警護兵たちすべては忠誠を捧げています」
「そ、そうなの?」
「はい。これは下働きの者まで浸透しております。そうだね?カラ」
「はい」
突然声を掛けられたが、アーウェンの専属従僕は動揺する様子もなく、軽く頷いて同意する。
「……何故自分のような者がちゃんと採用されたのかと思いましたが、平民の中では浮いてしまう『魔力持ち』ばかりだったということで、逆に生きるのが楽になりました……本当に、感謝してもしきれないほどです」
もっともカラがアーウェンを害する目的を持った誰かの道具になってしまっていたという事実はあるが、全く魔力を持たない母や妹、そして救貧院にいる大人や子供の中で感じていた違和感が、ターランド伯爵邸の使用人たちの中でまったく感じなかった──それがどんなに安らかだったか。
『拾われてよかった』そう思ったのは事実である。
もっともターランド伯爵領に住んでいるのはほとんどが大なり小なりの魔力持ちがほとんどで、ロエンも例外ではない。
それがどんな種類か目に見える者もいれば、そうでない者もおり、ロエン自身は後者だと思われる。
というのは、祖父であるデンゴー・ファゴットも息子のオーガンも特徴のある魔力持ちではなかったため、ロエンもそうだと思って特に検査していないからだ。
しかしロエンは同い年前後の子供たちよりも力があったため、おそらく筋力強化系ではないかと勝手に思ってはいるのだが──
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