少年は新しい部下を得る ②
それからアーウェンは勉学に、体力作りに、そして兵たちが行う訓練にと励んだ。
カラも当然一緒──ということばかりではなく、座学でも基本中の基本はすでに習い終わっているということで、別に訓練を受けている。
いったい何をしているのかとアーウェンが尋ねると、ちょっといたずらっ子のようなニヤッとした笑いを浮かべてカラは報告した。
「今日もロエンに勝ちました」
「今日も……」
「はい。これで五十戦五十勝です」
「ごじゅう……」
カラだけでなくロエンもとりあえずは基本的な勉強は終えているため、座学は警護兵や領兵としてのものにだんだんと特化していっている。
アーウェンが家庭教師であるクレファー・チュラン・グラウエスの授業を受けている間、彼らは彼らでその勉強をし、訓練中の組手で剣を交わしていた。
しかも数日に一回は「勝負だ!」とロエンが突っかかり、手慣れた先輩たちがあっという間に場を整えてくれる。
「でも五十回戦って、五十回勝ったんだ……」
「あ、それは中隊長がしっかりと見届けてくれた時の数です。不意打ちの時もあったりしますから、倍は勝っていると思います」
「………すごいね!」
『不意打ち』がどんなものか今いち理解できていないが、とりあえずカラは負けたことがないらしいということは理解できて、目をキラキラとさせる。
それを心からの賞賛と煌めく眼差しを小さな主人から向けられたカラは一瞬目を瞠り、相好を崩して少年らしく笑った。
ロエンは今日も蹲っている。
訓練用の木剣とはいえ、何度も受ければ痣になり、傷になり、痛みになる。
それに加えてかかっていく相手は年下なのに、一度も勝てずに毎回土まみれにされるのだ。
「おーい、しょうねーん」
「……………何スか」
「おっ、今日は素直に返事するんだな」
頭を埋めるように膝を抱えているロエンに揶揄うような声が掛かるが、子供扱いは仕方がないと受け入れる。
実際ロエンはカラどころか、この城に滞在している王都から来た警護兵にも、領内を護る役割を担っている領兵の誰にも勝てないのだ。
子供のてっぺんは正しくサル山のサル王、小さな池の中しか知らないカエルの王様だったのである。
どうすれば勝てる?
どうすれば先手を取れる?
どうすればあいつを地面に叩き伏せられる?
そう考えて打ち込み、引き、足を掛け、隙をつこうと突き上げた。
だというのに、カラはそれらを先読みしているかのようにことごとく避け、払い、剣を盾にして防がれる。
「……………何ですか」
「いやぁ?今日は珍しく萎れてるからさぁ。祖父さんちにでも顔出すか?」
「………え?」
「ま、ちゃんとアーウェン様に外出の許可を得てから、だけどな」
声を掛けてくれた兵の言葉に期待を込めた顔を向けたが、条件を聞いたロエンはたちまち不機嫌を隠そうともしない渋面になり、逆にその兵は面白そうに笑った。
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