少年は新しい部下を得る ①

何と言っていいのか、アーウェンは不貞腐れた顔に絆創膏をあちこちに貼ったロエンと、心なしか胸を張っているカラを見比べた。

ここのところ城内でも領都内でもカラが付いてこなかったのを不思議に思っていたが、まさかこの人と一緒だとは思わなかったのである。

「……あの、お、おとう、さま……?」

「ああ、うん。彼はロエン。ファゴット家の者だ」

「え、はい。えっと……?」

軽い身体を膝に乗せられたアーウェンは義父の説明を大人しく聞いていたが、やはり彼らを前にしている理由がよくわからない。

そしてそんな親子の前に立たされたロエンも態度を改めず、やはりそっぽを向いている。

「オイ!いい加減お前はターランド伯爵家の領兵としての自覚を持て!」

「イテッ!だとしてもあんな奴……」

領都に残ったルベラ副大隊長の代理として今回ターランド伯爵一家について戻ってきていたギリーが、反抗的なロエンの頭を拳骨で叩く。

だというのにその態度はそのままという芯の通った様子にラウドは苦笑したが、さすがにターランド伯爵家の当主としては見過ごすわけにいかない。

「ロエンはこのまますぐにアーウェンの護衛騎士として側仕えにしようと思ったが、まだまだのようだな。ルベラは指導不足として最低限の兵を残して領兵大隊を引率し、郊外での野外訓練を申し付ける。その子供も連れて行け」

「はっ」

「こっ、子供って……」

あくまでも一人前の男ではなく、子供としてしか取り扱われないことにロエンは抗議しようとしたが、素早く口を塞がれ身体を拘束されて、ギリーと共に退室させられた。

そのあまりの素早さにアーウェンはポカンと口を開けているだけで、何も言うことができない。

「……おそらくアレは、アーウェン、お前の実力の方が上でなければ認めない…そんな心持ちでいるだろうな」

「え……」

「まあ、お前の生育状態と年齢差そして育った環境を考えれば、そんな日は一生来ないとでも考えているだろう。それはそれで正しい……だが、お前はそれではいけない」

「は…はい……」

そうは言われても、何をどうしていいかわからない。

アーウェンが『とりあえず』返事だけするのを聞いて、ラウドは今度は声を上げて笑った。

「そうだな!まずは訓練を再開しよう。カラ、今のお前には退屈かもしれないが、アーウェンの訓練に付き合うように」

「退屈など……アーウェン様の身を護るためですから、どのような訓練もお供いたします」

ロエンとは正反対にどこまでも礼儀正しいカラは、ビシッと姿勢を正して礼を取った。

数ヶ月とはいえ王都にいる警護兵から領都に戻ってからも領兵と共に訓練し礼儀作法を叩きこまれたということもあるだろうが、やはり十年以上育ってきた救貧院での教育の成果もあるだろう。



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