少年はもう一人の部下を得る ①

「よろしいのですか?」

ロフェナが客間侍女サロンメイドにテーブルの上の食器を片付けるようにと指示を出し、新たなティーカップを主人の前に置きながらそう尋ねる。

それに答える前にラウドは凭れ掛かるアーウェンの身体に手を添え、自分の膝を枕にして寝そべる姿勢に直した。

「ああ。少なくとも、あの少年をそのまま領都に放置する方が、今後の保安に関して不安が残る。いっそのこと、目の届くこの城にあった方がいい」

「さようでございますか。久しぶりに見る元気の有り余る少年のようですから、兵たちもさぞ可愛がりがいがあるでしょう」

「うむ……ロフェナはどう思う?」

「そう…ですね……」

めったにない問いかけに一瞬躊躇いがあったが、ロフェナは素早く思考を回転させる。


行きついた答えは──


「アーウェン様の専属騎士……」

「のようなものだな」

ニヤッとラウドは笑ったが、それは持ち上げられたカップに隠れてしまった。



ラウドの考えと推察はこうである──


髪色は魔力持ちの属性に由来することは一般常識であるが、この国では黒髪で生まれた者はほぼいない。

理由は平民にはほぼ知られていないが、禁忌とされた属性──『黒魔法』のせいだ。

四元素である火・風・水・土からそれぞれ派生したり、複数属性として覚醒する魔力持ちの他、どの属性の特徴が現れない無属性、そして宗教団体がこぞって囲い込んでいる治癒や浄化という不可視の魔力である白魔法。

しかしその対極にあるとされる『黒魔法』を持った人間は魔力持ちからもそうでない者からも忌避対象とされ、国外へ追放されたり排除・・されたり、または無属性化する方法を模索され実験され、現在では完全に封じ込められていると伝わっていた。

そのため黒髪のように見えるぐらいの濃い茶髪は存在するが、アーウェンと同じような見事な黒髪の者はいない──はずである。


しかし何らかの理由で黒髪で、しかも黒魔法の属性を持って生まれてしまったとしたら?

その者がひっそりとこのターランド領で隠れ住んでいたとしたら?


もしそうだとしても王侯貴族に義務付けられている生誕届けや死亡届け、また病気や怪我などの治癒記録を教会に預けるシステムが、爵位を持たない者たちにはまったく行き届いていないせいで把握できていない。

おそらくアーウェンの髪色や黒魔法系の魔力を持っていることに関しては、母方の祖父が元平民で、騎士爵を賜る以前の系譜が記録されていないため、祖先のいずれかに黒魔法を属性とする者がいたのだろう。

サウラス男爵家の調査書には特に母親の髪色は記載されていなかったが、特に明記されていないということは少なくとも黒髪ではないはずだ。

とすれば、アーウェンは『先祖返り』であろうと推測される。



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