伯爵は派遣を思いつく ③
デンゴーはさすがに商会を放り出すわけにはいかない。
だが孫ひとりを領主の下とはいえ預けて帰るのに躊躇いがあり、孫息子を領主のもとに置いていくのを渋った。
さすがに祖父ひとり孫ひとりという血縁者を引き離すということは無情という気配が、周囲にいる従者たちからも滲む。
だがラウドは引き下がるつもりもないし、また両者の安全ももちろん考えている。
「……ただ単にお前の孫を預かり閉じ込めるつもりはない。もちろん、お前をひとりで置くこともない。お前の息子が家を出た後から戻ってくるまでの痕跡を辿ろう。お前の息子が襲われた状況なども、わかる限り調べて伝えよう。警護の者も派遣し、ロエンがお前を案じてもすぐわかるようにする。互いが同じ家で寝起きするほどの距離ではないが、この領都以外で暮らすことを考えればまだ早く会うことは可能であろう」
「は…はい……」
「どういう意味?ねえ!祖父ちゃん、俺はどうなるんだよ?!」」
デンゴーも完全に理解できたわけではないが、とにかく頷く。
しかしロエンは子供らしい頑固さでちゃんと説明しろと祖父を揺さぶり、返事がないと周囲にいる大人たちを睨みつけながら声を荒げた。
ロエンはここに残る。
祖父は帰る。
だが孫息子は納得しない。
祖父は孫息子に身を守るためだと言い聞かせる。
「……ロエンは訓練場へ。そこで己の実力不足を体感させろ。ギリーはファゴット商会の新入りを装える者を選抜しろ。それと、彼の店を含む一帯の警備を強化せよ」
「はい」
子供の駄々にかまけている暇はない。
いまだに嫌だ嫌だと泣くロエンに構わず、ラウドは淡々と指示を進めていく。
何故自分の店に警備の者が入ったり、さらに周辺にまでその範囲が及ぶのかまではしっかり呑み込めていないデンゴーは、いとも軽々と引き離された孫の方へ手を伸ばしかけた。
「さあこっちだ、店主殿。あんたの孫を預かる場所をちゃんと見ておいた方が安心だろう?あんたの店に入らせてもらう奴とも、予め顔合わせしておいた方がいいと思うんだ」
「ほら坊主!いい加減ビービー泣くんじゃねぇぞ!アーウェン様だってこんなことで泣いたりしなかったてのに!」
「うぅっ……グ……」
まるで幼児のように脇に抱え込まれて持ち上げられたロエンは、その腕から逃れようともがいた。
しかしどんなに子供たちの間では一番の力自慢であれ、身体強化魔法を駆使して制圧することに慣れているターランド伯爵家直属部隊の腕力に勝てるはずもない。
ロエンは顔を真っ赤にして腕を引き剥がそうとしたり足をバタつかせて暴れるが一向に力が緩むこともなく、ギリーを先頭に訓練場へデンゴーを案内する警護兵たちと共に、応接室から軽やかに運び出されてしまった。
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