伯爵は派遣を思いつく ②
「お前の亡き息子の妻の出身地は、どこだ?」
「え…あ、あ……」
再度の問いかけに何を言われたのかようやく理解し、デンゴーは老いた脳みそから記憶を引っ張り出すように唸りながら少しの間だけ目を瞑り、「あやふやですが」と断わりを入れつつ答えた。
「王都から見て西……なるほど……」
王都中心から北北西にあるのがターランド伯爵領で、離れてはいるがもっと北寄りで国境近くにあるのがアーウェンを預ける予定のウェネリドン辺境伯爵領だ。
そちらではなくほぼ垂直に左に向かうとあるのがロエンの実母が生まれ住んでいた地方である。
王国から平民が出ることはほぼ無いが、さすがに戦争に関わる立場にあるラウドは知識としてその外側にある国々も把握していた。
「流浪の民……確か黒髪の者が隣国を転々としていると聞く。一部の者が我が国に渡って地元に溶け込んだとも……」
「は……え、いやぁ……嫁がその黒髪の異国
「魔法薬?」
「へえ……不思議なもんで、使ってもなくならんのです。ただ、使い過ぎると今度は染まらんくなる……息子が自分の不在中に孫の頭に塗ってくれと置いていったんだが……」
「アレ……そんな変なもんだったんだ……」
「変とは何じゃ!」
祖父と領主様の話をポカンと聞いていたロエンはすっかり泣き止んでいたが、どうやら自分の髪を染めていた物が得体の知れない代物らしいと思ったのか、ゲェッとえずくような表情で祖父を睨みつけた。
その言葉にカッとなったデンゴーは思わず言い返したが、さすがに立場を忘れることはなかったようで孫の頭を押さえつけてガバッと白髪頭をラウドに向かって下げる。
「ああ、いや構わん……なるほど……」
何度目かの納得の呟きと頷きを繰り返し、ラウドは腕を上げてロフェナを呼び寄せると部屋の隅で控えている侍女と従者にそれぞれ指示を出すようにと小声で伝える。
そのままロフェナが従者たちと共にわずかに腰を曲げてから退室すると、ラウドはすっかり身体を乗り出して少年を見るアーウェンを引き寄せ、ゆったりとソファに座り直した。
「まずはお前の孫をこちらで預かろう」
「はっ……へ……?」
「この城には特殊な魔法が掛けられている。お前の孫を変な目で見る者もいないし、取り込まれたりする者もいない。逆に言えば取り入ろうとする者もいないから、子供たちの中にいた時のように威張れるとは思わないことだ」
「なっ……」
ラウドがふっと笑いながら告げると、デンゴーはびっくりしたように目を見開いて固まり、ロエンはグッと唇を噛んで睨みつけた。
この期に及んで牙を剥こうとするような態度はどうかと思うが、ラウドはこの町──いや、領地を治める立場にあり、思いついたことを実行するだけの力と権利がある。
常日頃はそれをむやみに振り翳さないだけであり、今こそ使うべき時だった。
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