伯爵は生い立ちを聞く ①
グスグスと鼻を啜り微かな嗚咽が止まらない孫に代わり、祖父が事情を説明する。
少年──ロエンの父親は、デンゴー・ファゴットのひとり息子であるオーガンといった。
なかなか子宝に恵まれず、ふたりも子が流れて気落ちした妻のために方々伝手を辿り、ようやく息子が産み月まで育ってくれるかと毎日心を砕いた。
そうして無事に生まれてくれたたったひとりの子を妻は甘やかしに甘やかしてしまったため、オーガンは世の中に自分の思い通りにならないことなどないと思い上がってしまったのである。
『こんな所にいられっか!』
そんな捨て台詞を吐いて息子が出て行ったのは、妻が亡くなって一年半が経った頃だった。
「もう無条件に甘やかしてくれる者はいないと……小さいものではあるが儂が興した店を継ぐ責任を果たせと、言い過ぎたのかもしれませんが……」
「それは息子が何歳の頃だ?」
「今頃のこの子と同じぐらい……いや、もう少し大きかったような……」
「……遅すぎるくらいではないか!」
呆れて思わずラウドが大声を出すと、老人はビクッと首を竦めて申し訳なさそうに俯く。
「は…はぁ……」
「いや、もうすでに言っても仕方のないことではあるが……それがどうして、こんなことに繋がったのだ?」
「はぁ……」
躊躇いつつも孫を慰める手は止まらず、述懐は続く。
母親に過度に甘やかされ続けたオーガンは、亡くなった後から急に口煩く責任やら仕事やらを押し付けてくるようになった父親を煩わしく思い、堪え性もなく飛び出したのが二十五年前──
「そしてふいに帰ってきた時に、この子を連れてきました」
ようやく一歳になったばかりの孫──突然現れた小さな存在に驚きはしても嫌悪感を抱くはずもなく、オーガンがゲッソリとした顔で「俺の息子だ」と言いながら手渡してきたロエンを素直に受け取った。
憔悴しきった顔で戻ったわけを聞けば、孫の母親──つまりオーガンの妻は半年ほど前にはやり病から回復することなく亡くなり、忘れ形見となったロエンを妻の両親に取られそうになって慌てて逃げ帰ってきたのである。
「息子は嫁を心から愛していたようで……少なくとも、儂らのところにいた頃よりはちゃんと成長して、責任を果たそうとしていたようでした」
「責任、か……」
ラウドはデンゴーの言う『責任』が子を成すことなのか、家庭を持つことなのか、仕事をする事なのかわからなかったが、とにかく先を話すようにと促す。
「しかしこの子はよほど嫁に似ていたのか……日が経つにつれ、避けるように稼ぐためと商業ギルドで荷運びを請け負うようになって、家を空けるように……」
そうして老人は声を震わせて悲しみを吐き出した。
「隣の領に行く山ん中で……息子はどこぞの山賊に襲われて、そん時に……」
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