少年は他人に興味を持ち始める

怒りのためか黄ばんだ白目を充血させた老人は、勢い余って立ち上がって孫を怒鳴りつける。

「おっ…お前がもらわれっ子なんぞと……」

「だって、そうじゃねぇか!父ちゃんとかいう人だってすぐいなくなっちまったし!母ちゃんの顔なんか知らねぇ!祖父ちゃんだって孫だなんて言われて押し付けられただけで、ほんとに血が繋がってるかなんてわか」

「いいかげんにせんかっ!」

バシッとまた頬を張られ、さすがに少年の身体はソファから床に崩れ落ちた。

訓練とは違う、老人とはいえ明らかな暴力にアーウェンが怯えラウドに縋りついたが、静まり返った室内で老人を止めようとする者は誰もいない。

「もらわれっ子…だなんて……お、お前の父は……あいつはっ……」

それ以上孫に手を上げることはせず、代わりに両肩に筋張った指を置いて老人は咽び泣きだした。

「お…お前は…お前の母は…お前を産んで、熱が出て死んじまったんだと…何度も、言ったじゃろうが…お前の父は家出しちまっていたが、それでも…町の絵描きに頼んで、ちゃぁんと晴れ着の記念画も…お前さんを抱いたんも……」

「で、でも……だって……デリスんとこおっちゃんが……」

「あいつの言うことなんぞ、信じちゃいかん!あいつぁ、いつだってオーガンのことを羨ましがってばっかりで…まともに働きゃせんのに、娘っ子ばっかり胎ぁ仕込んだって恨み言ばっかり言ってるだけじゃ!」

「でも……俺、父ちゃんにも…祖父ちゃんにも、似てねぇって……どっかよそんとこから攫われてきたんだって」

目をウロウロさせた少年は祖父から顔を逸らせて、なおも自分が血縁者ではないと言い張る──まるでそれが、彼の精神を支えていたかのように。

「お前は死んだ祖母ちゃん似だし、お前の母ちゃんにもよく似てる。でも、お前の耳だとか髪だとか…オーガンに、ファゴットの血のモンじゃぁ……」

「だ、だって……じ…祖父ちゃん……うわぁ…わぁぁぁぁ───っ!!」

懲罰を定めるためにあらかじめ名前だけでなく年齢や生まれ日などは確認していたため、少年がカラよりも年上だと知ってはいたが、それよりもずっと幼い仕草や表情で少年は泣き出してもまだ誰も口を挟むことはない。

さっきまで怯えていたアーウェンはジッとその少年を見つめ、ラウドの服を離して身を乗り出し始めた。



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