伯爵は言い分を聞く ②
入室した時から頬を膨らまし不機嫌さを隠しもしない少年を小突き、頭を押さえつけながら自分も頭を何度も下げる老人を見るラウドは、執務室に据えられたソファに、アーウェンと共に座っている。
ここにあえて義息子を連れてくる必要がないと言えばなかったかもしれないが、あえての対面だ。
「ホレッ!ちゃんと坊ちゃまに謝らんか!!」
「イテッ……何が『坊ちゃま』だよ……生まれつきのお貴族様でもあるまいし……だいたいどこから来たのかだってわかんねぇのに……」
「おっ、お前っ!なっ、何ちゅうことを……」
祖父は青褪めてブルブルと震えるが、少年はお構いなしにアーウェンを睨みつける。
「だいたい!小さい姫様だって、本物の坊ちゃまだって!綺麗な髪じゃないか!こんなニセモノみたいな真っ黒な汚い髪じゃない!こんな悪魔みたいなやつはとっとと……祖父ちゃん、何す……ガァッ!!」
もはや全身をガクガクと揺らし冷汗を垂らす老人が孫の口を塞いだが、それを振り払おうともがき逃れたところで、成長途中の身体は床に激しく叩きつけられ取り押さえられた。
「……アーウェン様を、侮辱するな」
「カラ」
ラウドがそうしろと言ったわけでもないが、アーウェンの従者として後ろに控えていたはずのカラは、さらに言いつのろうとしていた少年を床に押さえつけている。
そして部屋の中に控えている者は誰も少年に同調することなく、狼狽える老人と怯えた顔をするアーウェン以外は冷ややかに少年を見下ろしていた。
「……ずいぶんと増長しているようだが、どうしてアーウェンが貴族ではないと?」
「だ…って……そ、そんな黒い髪のやつなんて、この町にはいな……」
「そうだな」
これまでの訓練の成果を披露するような見事な取り押さえ方でカラは少年を押さえつけているが、声を出すことができる少年がラウドの問いに切れ切れに答える。
「確かに我が一族にはアーウェンと同じ髪色の者はいないし、この領にいる者とて、暗褐色ぐらいの者がせいぜいか」
「領主っ…様だって……わかってるならっ……」
「だがそれは今代と先代の世代の中では、だ」
「ぇ……?」
「数代前のターランド一族の中には、この子と同じように暗い髪色をした者もいたのだ……お前たちが知らぬだけで」
ターランド一族だけが知る、そして限られた者しか入ることが許されないこの城のある一室に、知られざる家族を含めた一族すべての肖像画が所蔵されているのだ。
それを軽々しく広めないのは一族の縁からその髪色の者が排除されているせいであるが──ラウドはジロリと少年の頭を一瞥したが、溜息をつくとこれで何度目かになるかソファに座るようにと促した。
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