少年は義兄とお出かけする ③
アーウェンは大人しく義父と義兄の会話を聞いていたが、目は虚ろだった。
──お前はいつまでそこにいるんだ!……ああ、ヒューや、ヒューデリック…すまなかったね、大声を出してしまって。
──いいんですよ、父様。アレはどうせ何も理解できないのですから……そういえば、もうそろそろ新刊が出ると思うのですが……
──ああ!お前が楽しみにしているのはわかってる。ちゃぁんと王立図書館で扱う初日に回してもらえるように手配済みだ。
──ありがとう、父様。嬉しいな……でも、僕…他の人とご一緒の本は……
──なるほど……そうだったな!では、書店に注文を入れておくからな!ああ、金か……大丈夫だ、領地にいるロアンが徴収税のうち生活費として先日送ってきた分があるからな!……何だ?家政婦の給金?知るか!そんなもの!
──で、でも……あなた……それ、に……あの、アレ…の……しょ、食事だって……
──食事?私たちの他に必要な者などいないだろう?ああ……産まれ損ないも数に含めているのか?ハハハハハッ!面白い冗談を言うな!まさかお前がそんな冗談を言えるような女だとは思ってもいなかったぞ!
クルクルと表情が変わる『あの人』は誰だったのだろう──一瞥もくれず、笑みを浮かべながらも目の形は変わらなかった『あの人』は誰だったのだろう──チラッと少しだけこちらを見て、変な笑いに唇を歪めていたのに悲しそうだった『あの人』は誰だったのだろう──
「……ェン……ア……?」
「…………………え………………」
視界が変に歪んでいると意識したのは、ボロリと熱い塊が零れ落ちた後だった。
ラウドは表情に出さなかったが、慌てたのはリグレである。
目を開けすぎてゴミでも入ったのかとアーウェンの顔を仰向けにさせて丹念に調べていたが、ガタンと馬車が揺れて、思わず押し潰してしまった。
「うわっ!わわわっ!!だ、大丈夫かい?!」
「……あ、あぃ……」
「か……」
ズズッと洟を啜りながら答えたが思わずエレノアのように舌足らずになってしまい、アーウェンは思わず顔を赤らめた。
「か?」
「可愛ぃぃぃぃ───っ!父上!可愛いです!どうしよう……王都で会った時より、ずっと可愛い……」
向かいの席に座っていたラウドは息子の絶叫に同意すると頷きながらも、できれば自分もそこに混ざりたくてうずうずしていた。
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