少年は義兄とお出かけする ②

ガタゴトと揺れる馬車の中で、リグレはアーウェンと一緒に窓の外を嬉しそうに眺めている。

毎年領都と王都を往復してはいたが、貴族学園に入学してから長期休暇は通常両親が王都にいる期間に設定されているため、こちらに帰ってきたのは久しぶりと言っていい。

憶えている店や何かを教えてやろうとしているようだが、記憶にあるよりもずっと発展していたためか、やはり物珍しそうな顔で目を輝かせている。

「……もっとこうやって一緒にいるべきだったな」

「父上?何か?」

「いや……そう言えば、王都にもないガブス共和国の料理を出す店がある……いや、まだ開店していないかもしれないが……」

「ガブス共和国、ですか?学園の外交基礎学では『まだ正式な外交交渉を行うに至っていない』と習いましたが……文化的にも我が国とは水準が違い、ずいぶん後進的だとか……」

「ほう?まだ基礎部分ではそこまでしか進まんか……いや、我が国の貴族子息教育であれば、高等教育でも……」

大国にあれば誰しもが『我が国こそが先進』という驕りは当然あるだろう。

実際ラウドもターランド伯爵家が戦争などで担う諜報活動で他国へ赴くことがなければ、国から閲覧が許されている情報でしか判断できなかった。

だが現地に行き、溶け込み、国同士で広げられるカードの何と少ないことかと気がつけば、開示されているものは『見られても構わない』というだけであり、肝心な部分は結局ヴェールの裏側に隠されているのを知る。

そしてまた外交とはまったく関係がないと捨て置かれる庶民の暮らしに根付く日常こそ重要であり、生活が豊かだとか、芸術がどのようだとか、国に実際住んでいる者たちがどんなことに興味を持っているのかだとか、そこに先とか後とか変な理屈はない。

そして自分たちの話す言葉が通じないことを『文化が遅れている』と断じる愚かさも、いずれリグレには理解させねばならないだろう。

「しかし、今日すでに開店していることを願おう。知らない文化に触れなさい。自分の未熟さを知るには、それが一番いいのだから」

「はい…………」

どうやら自分が何か間違ったことを言ったか、知識が足りていなのに知たり顔で発言したらしいと気付いたリグレは少し頬を赤らめ、キュッと唇を結んだ。



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