少年は義兄とお出かけする ①

しばらく経てばお互いに慣れて自然体になり、そうすればギンダーが思い込んでいる『ターランド伯爵家にとって不利益をもたらすかもしれない』という妄想はどこにもないことを理解するはず──


そのはずである。


だが若さゆえか、元来の性格なのか、慎重に慎重を重ね続け、ギンダーは「騙されないぞ」という目でアーウェンたちを見続けていた。

もうカラもクレファーも「この人はもう放っておこう」と視線の意味を考えずに動いているが、父や兄、そして雇われの家政婦から叱責や無視や逆に悪い意味での絡まれ方をされ続けてきたアーウェンにとっては『大人の視線』というものはどんなものでも苦しいもので、しかもそれがやや歪められているとあれば、どうしても気にせずにはいられない──どうしたらこの人の機嫌を損ねないでいられるだろうか、と。


逆にギンダーに対して憤りを覚えているのは、義兄であるリグレだった。

両親は何かの結論に至ったようであるが、まだターランド伯爵家の政治的な仕事を任されているわけではない自分には、その内容は知らされていない。

またギンダー自身も長男とはいえまだ成人まで間があるリグレに対して『ご当主様の息子』という態度を崩さず、大人として扱いもしないし話もしない──ある意味軽んじられているようで、それにも納得できずにいた。



誰しもが着地点を見出せぬまま刻々と時間は過ぎて行き、ラウドはリグレとアーウェンの息子ふたりを連れて城下へと降りる日が来た。

「そういえば、僕たちだけ出かけるのは初めてですね」

「確かにそうだな……」

ラウドとアーウェンが一緒に出かけたり、逆にラウドとリグレという組み合わせで出かけることはあっても、この三人でということはない。

王都邸にアーウェンを引き取った時にもリグレは帰省したが、あの時は連れ回すなど思いもできないほど痩せ細っていたし、そんなアーウェンを連れて歩けば好奇の目が集まっただろう。

自分の保身ではなく、ただ義息子の精神状態によろしくないと思ったラウドは、王都に屋敷を構える貴族の中でも有数の広さを誇るのをいいことに、アーウェンを匿っていたと言ってもいい。


だがそうした時期はようやく過ぎたと判断したラウドは、まずはターランド伯爵家が領都内でどのような評価をされているか知るのもいい機会だと思いながら、いつもより優しい顔でまずリグレを、そしてアーウェンを馬車に乗せた。



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