少年は認知される ①
ターランド領というところは王都から離れているためそんなに立地がいいわけではなく、むしろ旧公国ということで不便を囲っていると言えなくもない。
かといって隣接する領地の主たる貴族家と仲違いをする理由が
しかしそれは同じような文化レベルを有するというだけあって、特出したものがあるわけではない。
そんな代わり映えしない日常に新しく加わったもの──それがカブス料理店『パルセ』である。
「ほう……なかなか繁盛しているようだな」
「父上?あのお店が……」
「ああ。アーウェンの家庭教師であるクレファー先生のご実家だ」
「クレファー先生の……」
さすがにリグレはアーウェンが学ぶようなことはちゃんと年齢通りに修めてきたため、たとえ復習といえど参加していない。
それでもやはり気になってしまい、ほんのひと教科だけ見学をさせてもらうことがたまにあった。
子供ではあるが貴族として教育を受けてきたリグレとしては、庶民であるクレファー自身がアーウェンにふさわしいかどうかというのが気になったというのが理由だが、実際に授業を見てからは自分が幼い頃に受けていた授業よりも楽しそうで羨ましくなってしまったのが本音である。
そんなクレファー先生の実家──いや、異国料理屋の表にはいくつものイスやテーブルが出されており、楽しそうな雰囲気で食事をしている者たちが多い。
しかもそれはパルセだけでなく、通り一帯の食事処が同じように店外に席を作り、ラウド自身も知らない間にずいぶん賑わっているようだった。
「ではここで馬車を降りるよ。中を馬車で抜けることは可能だが、どうせなら歩いてみて回ろう」
「はい、父上」
「はい、おとうさま」
リグレとアーウェンはそれぞれ返事をし、御者が置いてくれた足置きを使う前にラウドがひとりずつ抱えて降ろした。
「あ!ご領主様!」
馬車を停車場に置いて休憩するようにと御者たちに金を渡すと、ラウドはアーウェンを真ん中にして手を繋ぐと食事ができる店ばかり集まっている通りに足を向けたが、あまり進まないうちにでっぷりと太った男が声を掛けてきた。
その呼びかけにすぐ誰だかわかったらしいラウドは声のした方に顔を向け、気を許した笑顔で繋いでいない方の手を軽く上げる。
「ああ、商店街長。久しぶりだな、元気にしてたかい?」
「はい、お陰様で……今日はいったいどうしましたんですか?おや?こちらの坊ちゃんは確か……」
そう言いかけて、その男性は顔を顰めた。
視線の先には二人の少年がおり、『ターランド伯爵家のひとり息子』はどちらだろうと混乱した表情を浮かべる。
「ああ、長男のリグレだ」
「ごきげんよう、商店街長」
「えっ、あっ、はい。は、初めましてリグレ坊ちゃま。私はショー……」
「で、こっちが次男のアーウェンだ」
「あっ!はっ、はい!た、大変失礼しました、アーウェン坊ちゃま」
「え…えぇと……」
「僕の真似をすればいいんだよ、アーウェン。こうやって手を出して、『ごきげんよう』って言うんだ」
「は、はい……あの、ご、ごきげん…よう…?」
「……はい、ごきげんよう、坊ちゃま……その、私はディタ・ショーニーと言います。この商店街全体を取りまとめる役をいただいてます。何か揉め事や問題ごとがあったら、おっしゃってくださいね」
そう言って笑顔を向けられたが、アーウェンは軽く握られた手が離されるとすぐにリグレの横にピッタリとくっついて恥ずかし気に顔を伏せた。
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