少年は義家族と料理をする ②
たくさんのリンゴを洗ううちに水浸しになってしまったアーウェンと、粉だらけになってしまったエレノアは、それぞれ綺麗に洗われた。
さすがにこの小屋に浴室はないが、リネンなどを洗うための洗濯室があり、そこを簡易的な洗い場としてリンゴを浮かべていたのと同じぐらいの大きな桶に湯が張られたのである。
大人では無理でも、細くて小さなアーウェンとちゃんと肉がついてはいるがやはり小さなエレノアであればひとりずつ桶に入ることは可能だった。
不思議なことにふたりの新しい服もちゃんと用意されており、リンゴのように綺麗に水気を拭き取られたアーウェンとエレノアはサッパリと──否、やや眠気を帯びた顔で両親と兄の元に戻る。
「ハハハ!やはり疲れたか。ひと眠りしてくるといい」
「やぁ~……のあ、もうしゅこし、おりょぉりしゅる~……」
「あの…ぼく、も……おりょう…り……」
本邸からこの小屋に来るまでの道のり、暖かな陽気、甘い果実の匂い──アーウェンには
それでもここにいたいと思うのは、もし眠ってしまって、目が覚めたら全部消えてしまうのではないかという思いからである。
誰にも言えない──まだアーウェンが時々『今』が本当ではなく、ひょっとしたら『早く隠しておいたパンを少しだけ食べて、お水をいっぱい飲んで、おとうさまとおにいさまに笑われないように、おかあさまに姿を見せたら怒られるから、すぐに通いのおばさんのところに行かなくちゃ』と思いながら、隙間のような自分の寝床から出ようとしているのではないかと疑っていることを。
日の光がまだ完全に空から夜を追い出す前、薄暗い部屋の中、豪華で柔らかな布団と清潔なリネンの匂いがするのに、恐怖で汗を薄っすら滲ませて目覚めることを。
だから眠りたくない。
幸せな気持ちのまま起きることも増えたけれど、それでもやはり眠るのが怖い時がある。
今はカラがそばにいないから、ひょっとしたらこれも夢なのかもしれない。
頑張ってアーウェンとエレノアは、鍋に入れられたとき卵と牛乳を混ぜている。
グルグルとフォークを回しているが、その動きに気を取られると瞼が落ちてきてしまうのは何故か。
うと…と少し傾き、ハッと気を取り直してまたかき混ぜるのを再開するが、どうにも身体が温かくなって気が緩んでいく。
「はい、では次はお砂糖を入れますよ~」
「しゃとぉ……」
「はぁい……」
ふたりとももうトロリと視点が合わず、後ろで控えている侍女に支えられている状態である。
サラサラサラサラ……
細かい砂糖がまた篩にかけられながら落ちていく様を見ているうちに、とうとうまぶたが落ちて、小さな手がようやくフォークの柄を放してくれた。
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