少年はいつもと変わったことに戸惑う ②
アーウェンが自分を頭から足までを見、また視線を上げて頭まで来た時に口を閉じたのを見て、カラは何となく言いたいことを察する。
そして先回りすることなく次の言葉を待ったが、幼い主人はパクンと音を立てて口を閉じてしまった。
「ア…アーウェン様?」
「え……あ……う、うぅん……な、んでもない……」
チラチラとカラの髪を見て何か言いたそうだが、アーウェンはやはり諦めたように視線を落として無言で立つ。
そのあまりに子供らしくない卑屈な様子に、カラは困惑と共に少し怒りも感じた。
貧民院にいた頃は子供同士で面倒を看るような環境だったが、年に数回、母親の誰か彼かが子供たちみんなの髪を切ってくれた。
もちろん人数は多いし年齢もバラバラなため、一回に五人までとか、今回は小さい子だけとか、女の子だけ男の子だけとか、優先順位も様々だった。
そうして切ってもらえなかった子は整えてもらった子を羨ましがり、先に切ってもらった子と同じにしてもらいたいとかもっと素敵にしてだとか、いろいろリクエストを言うことも許されたのである。
高価なおもちゃを買ってもらったり物凄いご馳走を食べさせてもらえたわけでもないが、母親たちがどんな仕事をしているのかを知るまでは楽しく暮らしていたし、子供はちゃんとわがままを言うこともできた。
なのに、少なくとも平民ではなく『男爵』という貴族位の子息だったはずのアーウェンは、たった一言「いいなぁ」とか「ぼくもかみをきってほしい」とか、羨望や希望の言葉を言うことすら躊躇っている。
「いったい……どうしたら……」
「カ、カラ……?あ、あの……どうしたの……?ぼく、わるいこと、したの……?」
アーウェンに子供らしくわがままや好きなこと、やりたいことやして欲しいことを言ってほしいのに言ってもらえない──そのことにもどかしさを感じて動けずにいると、アーウェンが怯えたように声を掛けてきた。
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