少年は見かけを整える ①
「違う」と、「そうじゃないんだ」と、「もっとわがままを言っていいんだ」と、何とか説明したかった。
だけど──
「カ…カラ……?」
少年にできたのは、小さな身体をギュッと抱き締めることだけだった。
「着替えましょう、アーウェン様。皆待ってます。旦那様も、奥様も、お嬢様も……皆、アーウェン様を待ってます……」
「う…うん……?」
いきなり抱き締められて戸惑ったが、そこで「何故」と聞くこともなくアーウェンはカラの促しに素直に頷き、小さな指でゆっくりと寝巻のボタンを外した。
ここに来るまでに少しずつアーウェンは『服の着方』を覚えてきて、その成果が出ているのをカラは満足そうに眺めている。
もちろんサウラス男爵家で暮らしていた時だって、誰も世話をしてくれないからこそ簡単に被ったり履くだけのシャツやズボンを身につけることはしてきたが、前身ごろもを開いたシャツの袖を通すということも、ボタンを嵌めたりリボンを締めたりという指先を使うようなこともしてこなかった。
だからサウラス男爵家に通う家政婦が眉を顰めながら無言で着せてくれた服がどういう仕組みになっているのかさっぱりわからず、当然脱ぎ方も知らない状態で、着の身着のままで与えられた部屋の支度部屋の済みで寝ようとしていたというのを見たロフェナが毎朝毎夜着替えを手伝ったのである。
その役目を交代したカラは、少しずつアーウェンに自分自身で服を脱ぎ着できるようにと、小さな子供を世話してきたのと同じく教えてきた。
おかげでそんなに難しいものでなければだいたいひとりで身支度できるようになりつつあり、最後の仕上げに靴ひもを結んでやってから、カラはアーウェンを連れて義父母への挨拶の前にある部屋へと連れて行った。
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