少年はお城に圧倒される ①

今ではすっかり緊張も解け、邸宅の中を歩くのに靴の裏を気にして廊下の端を歩くことなどなくなった頃──


アーウェンがいつものように起きると、訓練用の『汚しても破れてもいい服』ではなく、ここに到着した時に着ていた綺麗な方の服が用意されていた。

「え……?どうして……?」

「おはようございます、アーウェン様」

そこは変わらずきちんと服を着たカラが側に控えていたために、倣い覚えた「おはよう」という挨拶を交わすことができ、そのおかげで少し気持ちを落ち着かせることができた。

だがカラの服もやはり運動に適しているとは言えない物で、やけにさっぱりしている。

「どう……したの?カラ、なんかちがう……?」

違和感を覚えたものの、それが何なのかよくわからない。

もっともカラはアーウェンの視線と疑問の浮いた表情を揶揄うことなく、サラリと種明かしをする。

「今朝手入れをされまして、これから領都の本邸にあがる前にアーウェン様の従者として相応しい格好をしなさいと、新しく服を支給していただきました」

「ていれ……」

確かによく見ればカラの髪は少し短くなり、かっこよく整えられている。

寝起きでボワっとしているアーウェンの髪とはまったく違い、少し羨ましいなと思ったが、そう言おうとして開けた口を慌てて閉じた。

ターランド伯爵家の新しい家族や使用人、専属の兵たちに愛され大切にされる毎日に、サウラス男爵家で暮らしていた日々の辛い記憶は薄れていっているのに、アーウェンにはまだ『自分の気持ちや希望を言ってはいけない』というような心の制約があるようだった。


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