少年は剣の揮い方を習う ②
何ということか──
カタカタと細かく震えながらも最軽量の模擬剣を握り、動けないながらも転倒からまた立ち上がって構えようとするアーウェンを見る皆の目は、痛ましさに歪む。
だが訓練を途中で止めるわけにはいかない。
戦時中には「ちょっと待って」なんて言葉はないのだ。
どんなに恐ろしかろうが、トラウマがあろうが、年齢差があろうが、勝利するまで。
だがそれでも今のアーウェンに対し、いついかなる時でも剣を握り、敵の目の前に立ち塞ぎその進軍を留めろとは、誰も言えないだろう。
『幼いから』という理由だけではない。
憐れむその気持ちにも嘘はない。
躊躇う気持ちを持つことだろう。
しかしそんな存在が兵の中に有れば、軍の士気に係わる。
最悪守るべきものを見誤り、壊滅の憂き目にあうだろう。
人の命を守る者にも、自分の命を守る権利はあるのだ。
それを疎かにしかねない存在──たとえどんな盟約があろうと、そのような者をターランド伯爵の名を背負わせて遣わすわけにはいかない。
「……まずは自分が痛めつけられる存在ではなく、立ち向かっても良いのだと、しっかりと理解させねばならないが……」
「そうですねぇ……かと言って、アーウェン様よりか弱いものを標的にするのはまた憚られます。我が兵にはアーウェン様と同年輩の者もおりませんし、いかがいたしましょうか?」
「確かに……」
百戦錬磨の猛者たちではあったが、子供相手に訓練などしたことのないラウドたちにとっては解決策が見えない。
だが、ここで立ち止まったままでもいられない。
とりあえずは打ち込みに使う十字に組んだ丸太に向かっていけるよう、正しい剣の振り方や踏み込み方など、精神的に苦痛を感じづらい方法を探るしかなかった。
「そうそう!そんな感じで」
子供の相手は子供で──というわけでもないだろうが、結局のところ上手く対処できたのは、年齢の近いカラだった。
アーウェンは丸太からほんの少し離れた場所に立ち、片足だけを踏み出して、その動きと連動してゼリー状衝撃吸収物入りの布袋を何重にも巻いた丸太をポヨンと叩く。
「えいっ」
「はい!もう一度!」
「うん。えいっ」
「もう一度!」
「えいっ」
「次は右からです!」
「えいっ」
「次は左!」
「えいっ」
「はいっ!また上から!」
「えいっ」
ポヨン、ポヨン、という可愛らしい音が数度続くが、すぐにアーウェンは疲れて座り込んでしまう。
「今日は五回ずつできましたね。明日は倍の十回を目指しましょう!」
「ううん…きょう、じゅっかいする!」
「ダメですよ……まだ座学が年齢に追いついていないのですから。あまり無理をされると、またペンを持てなくなりますよ?」
「はっ、はい!クレファーせんせい!」
カラはアーウェンが叩き込む剣の音が『ポヨン』から『バシッ』という音に変わったら踏み込んで剣を振らせようと考えていたが、さすがに剣術ばかりというわけにはいかず、クレファーがやりすぎを注意するように目を光らせる──いい連携の取り方と言えた。
「……また私の出番が無くなってしまった」
「ハハハッ。しかしこれ以上大隊長に張り切られると、部下たちの回復が間に合いません。また良い間隔でアーウェン様の進捗具合の確認を兼ねてお越しいただければ」
「まったく……言い方だけは丁寧だな」
だが、ラウドもギリーのその言葉に頷くしかなく、アーウェンが笑いながら少しずつ前進できていることを見て、訓練場を後にした。
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