少年は剣の揮い方を習う ①
アーウェンが剣を握る姿は、案外様になっていた。
様にはなっていたが──何となくあやしい。
たぶん構え方は見て覚えたのだろう。
振り方もスピードはないが、上段や横への薙ぎ払い、下段から上に振り上げるなどの動きもできる。
だが──
「うわぁ!」
「ア、アーウェン様!大丈夫ですか?!」
大人が相手ではさすがにまずいだろうとカラがアーウェンの相手になったが、かなり力加減をしたにも関わらず、その小さな身体はコロンと転んだ。
切り結ぶとか相手の剣を受け流すとか、そんなこともせずアーウェンはただ構えているだけなのだから当然だろう。
カラ自身もアーウェンの従者として付き従うだけで特に訓練をしているわけではなく、両手で持つような長い剣を振り回すのも、実はあまり得意ではない。
だから力加減ができずにぶつかってしまったのかと思い、つい慌ててしまう。
だがどうしてアーウェンが避けたり、模擬剣が当たる時に流すのではなく止めるように動かないのかというのが、カラには理解できない。
母や妹と共に暮らしていた時にはやはり同じ境遇の子供たちの中の年長者として面倒を見ており、もっと素朴に単なる木の枝を互いに構えて打ち合う遊びなどをしたが、アーウェンより小さな子供だって棒が当たりそうになればサッと避けたり逃げたり打ち返した。
ではアーウェンの方から打ちかかってくるかと言えば、ピタリとその動きは止まってしまい、本人にもどうして身体が動こうとしないのか理解ができないらしい。
「確かに剣の構え方なんかは悪くはないんだが……」
「ええ。素振りをしてもらう前までは悪くない感じなんですが。誰かが前に立つと、どうも委縮する……というのとも違うような」
「ふむ……報告書にあった幼少時の酷い経験のせいで、自分は動けない、動いてはいけない、動かずにただ受け止めるだけのもの……と」
「その当時はほぼ赤ん坊と同じようなものです。受け止められるはずもなかったのに、馬鹿者どもが……」
今まで調査しようと思わなかった事実が掘り起こされ、系統化され、事実や噂や嘘が篩にかけられ整理され、ターランド伯爵家当主であるラウドや副隊長代理のギリーらと共有される。
それはあまり気持ちの良いものではなく、むしろこれまでよくアーウェンが生き抜いてこれたと実感するようなものばかりだ。
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