少年は悪夢を忘れる ④

ログナスはまだまぶたを重く腫らし、白目を充血させたまま、見送りにとやってきた。

ラウドたちのもたらした報告書の価値は重く、今後はある程度風通りは良くなりそうではあったが、膿を出す痛みはかなり辛いに違いない。

「……思いとどまってくれたか?」

「はい……ジェナリー様に散々叱られ、『負うべき責任を負わずに投げだすのは、正しい責任の取り方ではない。ルアン伯爵家当主となったからには己が起こした不祥事以外で、当主の座を降りることも、町長としての仕事を投げ出すことは許さない』と……アーウェン殿に対する暴力や暴言、虐待行為に対して責任を負うべきは本人であり、この町の中で行った犯罪行為も本人が償うべきだと。私がやらなければならないことは、こういった過去を持つ者がいるという事実を王宮に対して進言し、速やかに類似のことが他にも起きていないかを調査してもらうこと。今はその材料が手元にあることを活かせ、と」

「相変わらず素晴らしい女性だ。確か、あの年に『女性大将』として担ぎ上げられたお人形だと思い込んで、ずいぶん痛い目に逢った模擬戦の対戦相手は、今は王属軍隊の中でもかなりの地位にあると聞くしな……」

「私もいまだに、我が妻の一兵卒であると反省いたしました」

大人ふたりが苦笑しながら話すのを、アーウェンは興味深そうな顔で聞いていたが、実際はあまり理解できていなかった。


その代わり──


「ログナスおじさん!」

「えっ?!あっ…は、はい…あ…アーウェン殿……?何か……?」

「はいっ!」

初めて会った時のおどおどとした表情はすっかり消え、元気よく差し出されたのは綺麗な花束だった。

朝早くにジェナリーに許可をもらい、エレノアと共に植物園で摘ませてもらった物である。

花の意味をカラにお願いして図鑑を読んで教えてもらい、色どりなども考えて作ったそれは『元気を出して』と『幸せです』という意味合いを持っていた。

「ありがとうございます。父様から、ログナスおじさんが僕に『嫌なこと』をした人たちを叱ってくれたって聞きました。僕はあまり覚えていないけど……だけど、僕より小さい子たちで、この町でやっぱり『嫌なこと』をされた子たちがいて、これからそんなことをされないようにしてくれるって……でも、おじさんはあまり気持ち良くないだろうって教えてくれました」

「のあとー、おにいしゃまとー、おじしゃまに、げんきだしてねーってー」

アーウェンの傍にやってきたエレノアも同じ花で作った少し小さめの花束を差し出すと、ふたたびログナスの涙腺は大崩壊を起こした。


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