第4話 オレのジョブ
「由々しき事態じゃ。」
アネの言葉にオレは震えた。『由々しき事態』それが何を意味するのか、2人目の勇者が出た……という可能性もなくはないが、彼女の驚き方からは、それとは違う何かを感じる。
「……と、言いますと?」
オレは思わず口を開いた。しかし、アネは反応しなかった。
「アネ様、いかがなさいましたか?」
横にいた進行役の女性がアネに声を掛けた。静まり返っていた周囲の者が、アネの動揺に気づき、少しずつどよめきだす。
「学院長をお呼びしなさい。」
進行役の女性は無言で頷き、慌てた様子でその場を離れた。
——ほどなくすると祭壇後方の扉が開き、奥から老人が現れた。格式高そうな帽子をかぶり、高貴なローブを羽織っている。見るからに学院長……というような風貌だ。
「ハイネ様、こちらに。」
アネがハイネ(学院長)を祭壇前に案内している最中、オレはハイネの後ろに少年がいることに気づく。小学校高学年くらいの見た目だ。孫なんか連れてくるなよ……内心そう思ってしまった。
学院長は真実の眼を覗き込むと、大きく頷きながらフサフサのアゴヒゲを触りだした。
「うむ、キミのジョブはアサシンだね。……アネ、あとよろぴく。」
アサシンか。勇者じゃないことは薄々予想していた。個人的にゲームでアサシンをたまに選ぶ程度には好きだったオレは、ミーアに申し訳ない気持ちは感じながらも、そこまで落胆しなかった。……ってか学院長、キャラ軽すぎない? 「よろぴく」ってなんだよ。
「承知しました。」
アネはハイネのキャラに慣れているのだろうか淡々と答えた。ハイネはその場を後にし、オレは進行役の女性に促され、元の席に戻ろうとした。
「アサシンだってよ! そんなジョブ聞いたことねぇな!」
先ほど勇者が発現した男が声を発した。顔立ちは良いが目つきはなかなか悪い。徐々に周りの人間も同調して笑いだす。さすが勇者だ。人を惹きつける魅力があるのだろう。良くも悪くも。
(ちょっとまて、「アサシンなんて聞いたことない」……だと? どういうことだ?)
「静まれ。まだ儀式の途中じゃ。」
静観していたアネが声を上げた。大きな声ではなかったが、心に直接語り掛けるような声に、みな自然と口を閉じた。それを見計らったかのように儀式が再開された。
「ミーア、『アサシン』ってあまり知られていないジョブなのか? 学院長まで出てくるし、みんなの様子が明らかにおかしかったんだが。」
ミーアの様子がおかしい。やはり何かあるようだ。
「タクトさん、落ち着いて聞いてください。昨日『アーデ様』のお話をしたこと、覚えておいでですか?」
「あぁ、バルク家の分家で一番有名な人だよね?」
「そうです。私は、先祖であるアーデ様のことを詳しく知るために、アーデ様自身や王国・ジョブのことなどを沢山調べてきました。知識の量にはそれなりの自負があります。」
……ミーアは若干の沈黙を置いて続けた。
「私の知る限り、『アサシン』というジョブはこの王国に存在しません。」
「じゃあ、暗殺者ってジョブはないのか? 殺し屋みたいなジョブ!」
「残念ながら……。王室や領主の跡継などで、ひそかに関係者の命を奪う行為は過去にも例があるのは確かです。しかし、その者たちは騎士や弓使いなど正式なジョブを持った者たちだったかと。……タクトさんはアサシンが何なのか見当がついておられるのですか?」
「実際のところどうなのか分からないけど、もしかすると闇討のような行為を得意とするジョブかもしれない。(現代のゲーム知識と共通していれば……だけどな)」
ミーアは少し考え込んだのち、しゃべりだそうとした。
「次、ミーア・バルクは前に。」
タイミング悪くミーアの順番が来てしまったようだ。ミーアはこちらに微笑むと、そのまま祭壇に向かって歩き始めた。
オレは深く深呼吸をした。頭の中を整理したかったからだ。
オレのジョブはアサシンになったが、この王国にアサシンというジョブは存在しない可能性が高い。それに、オレの知ってるアサシンと同じかどうかも怪しい。さらに、あの目つきと根性が悪い男が勇者になった。
「なかなかまずい展開……だよな。」
勇者になって無双できるかも……と少し期待してた自分に嫌気がさした。
そんなことを考えていると、なぜか周囲がざわつき始めた。慌てて祭壇のほうに目をやると、ミーアが……泣いているのだろうか? うつむきながら手で顔を覆っている。……と思ったのもつかの間、床に膝をついた。
「ミーア!」
オレは自然とミーアのもとに駆け寄っていた。体が震えている、やはり泣いているんだ。オレはミーアの横にしゃがみ込み、背中を撫でた。
「ミーア、どうしたの?」
声を掛けたもののミーアは泣いてばかりで反応がない。
困り果てていると、祭壇のほうから声がした。アネの声だ。
「バーティカルメイジ……か」
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