変な話だが

 俺の実家は本当に山奥にあって、熊が出るとか子供が失踪するというのは珍しくない。

「遊びに行く時は暗くなる前に絶対に帰れ」と言われていたっけな。

 ある日の俺は、親と喧嘩をする。

お互いに頭が沸騰ふっとうする程怒っていて、辺りは薄暗い時間帯だというのに俺は山に入ってしまった。

泣きながら歩いて、しばらく帰らないつもりでさ。

「一人で生きていくんだ」なんて考えていた。


 それから何年経っただろうか。

警察や救助隊の声が聞こえていたのもつい最近までだ。

耳をつんざく様な甲高い鳴き声を最後に、周囲の音が消えたんだ。


俺の手にはさび付いた包丁が握られている。

いつまでも音を探して歩く。薄汚れ、落ちぶれている。

ああ、何にも聴こえない。


変な話だな。

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