第6話

 姉さんは良いとも悪いとも言わず視線を落として黙り込んだ。しかし俺はもうガマンの限界だ! 押し倒してでも揉むぜ!


 というテンションでは、実は、無い。

 俺は俺で正直ビビッていた。委縮してると言ってもいい。代わりに元気いっぱいな部位があるけどそれはそれとして、だ。

 ここまできたら押し倒してしまうのが男子高校生としては正しい在り方なのかもしれない。でも俺はいちいち合意を取らないとダメなタイプなんだよ。無理やりとかほんと無理無理。


 しかし正直ここで引き下がれと言われると辛いのも確かだ……煩悶と待っていると姉さんは僅かに視線を上げて言った。


「ね、姉さんは……」


「姉さんは?」


 ごくり。生唾を飲み込む。


「姉さんは弟におっぱい揉ませたりしない。エロゲじゃあるまいし」


「ですよね」


 あー、まあいいです、いえ、いいですとも。

 落胆はしたけど幸か不幸か俺はここで今までの人間関係の全てを粉砕するような度胸も渇望も持ち合わせていない。だからこの話はこれで終わりなんだ。俺はそう心の整理を付けたのだけれども。


「だ、だから……ごにょ」


「なんて?」


 え、終わらないの?俺の中ではもうアニメの一期最終話くらい悲しくてお空の綺麗なエンドロールが流れてるんだけど。

 俺の混乱を察してか知らずか、姉さんは身体を離して俺の方に向き直るとその双丘を押し上げるように腕を組んで上目遣いに言った。


「姉さんじゃなくて、私のこと……名前で呼んでよ」


「え……可愛い」


「そうじゃない」


「あ、ごめん」


「そうでもない」


 姉さんは拗ねたように口を尖らせて俺を睨む。

 しかし俺の心情をもっと察して欲しい。俺はまさに今この荒ぶった心身を圧倒的な理性の力で賢者へと昇華させようとしていたところに突然ダメ押しの一撃を受けて放心状態だったんですよ。


 ぐうう……赤面上目遣い睨み涙目巨乳眼鏡地味子お姉さん属性による「名前で呼んで」がここまで深く心に、いや魂に刺さるなんて……。これが性癖ってやつか。

 しかもよく見たらたてセタだ。姉さんの服なんかそんなマジマジと見たことなかったな。まあそりゃそうだよな、姉さんだし。

 しかし、その熱いまなざしに姉さんのままではいられなくなってしまったのだ。いや俺の方がだけど。


 俺はそっと姉さんの両肩に手を乗せる。


「…………っ」


 びくりと震えた彼女の耳元に顔を寄せて、俺はたぶん生まれて初めて、その名を直接囁いた。

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