第4話

 とりあえず一旦落ち着いた姉さんをそっとしておいて、俺は宿題を片付けに視線を戻した。まったく、教えに来てる人間が自分から雑談始めて俺に諫められてりゃ世話ないよな。

 このひといっつもそうなんだよなー。なんか中学の頃俺がクラスの女子の話したときも凄い荒れてたし。なんでだ?高校上がったばっかのときもそういえば……。


 あっ。


 っと、なんでもない。なにか察しそうになったけどこれたぶん気付かないほうがいいやつだ。

 俺は脳裏を掠めた憶測を無意識の彼方へ放逐し宿題に集中する。


「姉さん」


「なによ」


「今どうして俺の真横に移動なさったのでございましょうか」


「横向きや向かい側より同じ向きから見た方が問題集が見やすいからよ」


 姉さんは何故俺の努力を水泡に帰そうとするのか。


「姉さん」


「なによ」


「その、申し上げにくいのですが実は右腕にめっちゃ当たっててですね」


「当ててんのよ」


「えええ、それで、あの……問題を解こうと動かすとあの……感触が……凄いんですけれども」


「先生の虚数宇宙とどっちが上?」


「もーそういうこと聞く!?」


 敢えてここまで視線を向けることなく対応を取り繕ってきた俺だけれども、そろそろ限界だった。心身ともに、まさにココロもカラダも爆発しそうだ。男子高校生だからな!


 横目に見ると姉さんの鼻先が、文字通り目の前にあった。目と鼻の先ってこういう意味じゃないんじゃないかな。


 くそー姉さんも女のひとなんだよな、先生とは違うけれどもいい匂いがする。押し付けられる体温と匂いと自分の動悸で眩暈がしてくる。

 一方の姉さんも耳まで真っ赤だった。顔がめちゃくちゃ近いのに俺の顔なんか見ちゃいない。


「え、姉さんなんでこっち見てないの」


「……別に今はそんなことどうでもいいでしょ」


「いやいや」


「いやいや」


 姉さんは頑なにこちらを見ようとしない。


「いやあ質問しておいて相手の目を見て話さないのはほら、失礼なんじゃない?」


 我ながらいやらしい詰め方だ。でも俺だってやられっぱなしでは済ませられないんだ。これはもはや戦いと言っても過言ではない。なにと戦ってるのかわからんけど。


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