第25話 ガラスの雨
「ゴリさん」声を飛ばし、「ちょっと、確かめてきます」
返事を待つことなく走る。
ぽつんと座っていた男の子。友だちもいなく、昨日の夜から続く避難は、つまらなかったと思う。ふらっと体育館をでたかもしれない。でも、外が雨だというなら、あの外廊下に行ったかもしれない。好奇心、冒険心、昔の自分を思えば、その気持ちが分かる気がする。
外廊下から段差に上がり、引き戸へと手をかけた。なんの抵抗もなく開く。
後を追いかけてきたゴリさんや美和に、ここかも、と声をかけ、靴のまま校舎の中へと走った。
最初に目についた引き戸を開け、大声で呼びかけた。
横をゴリさんが「時間がないぞ。急げ」と駆け抜けていく。そして、隣の引き戸を開けて、僕と同じように呼びかけている。美和もさらに奥へと向かっている。
談話室か資料室といったこの部屋に男の子の姿はない。ゴリさんは給食室らしきところに足を踏み入れ、声を張り上げている。美和は玄関と階段を挟んだ先の職員室らしきところで叫ぶように声を響かせている。
その横を駆け抜けると、一番奥にもうひと部屋ある。ここか、それとも2階にあるであろう教室だろうか。
引き戸を開けると、いくつもの本が溢れている。
図書室、そこで声をあげようとした瞬間、男の子の姿が目に止まった。小学校1年生には難しすぎたのだろう。床に置いた本を枕に丸まっている。
「いたぞ!」
外に向かって叫び、男の子へと近づいた。気持ち良さそうな寝息が聞こえてくる。だが、今は寝かしておくわけにはいかない。腕時計に視線を向けると――17時26分。あと4分しかない。
声をかけ、体を揺するが、唸るばかりで目をさましてくれない。靴音とともにゴリさんと美和が駆け込んできた。ゴリさんは勢いそのままに、男の子を抱き上げ、
「急げ。走るぞ」
図書室から飛びだしたゴリさんに、僕らも続く。
だが、廊下に響き渡った音に僕らの足は止まっていた。目の前にガラスの破片が飛び散っている。
立ちつくす僕らの沈黙を破ったのは、男の子の叫ぶような泣き声だった。
ゴリさんが、大丈夫だ、声をかけながら抱く手に力を込めている。
「急ぐぞ」
ゴリさんの声がし、走りだそうとした瞬間、再び胸を締め付ける音が響き、美和の短い悲鳴が重なった。
職員室前の廊下にガラスが飛び散っている。間を置かずに再び山側に面したガラスが割れる。
まるで小石でも投げつけられているかのように、次々と割れていく。まだ、数分あるはずなのに行くてを阻むように、廊下に破片が広がっていく。
すぐ目の前にもガラスが落下し、破片が体へと向かってきた。廊下の山側は腰上の高さに窓ガラスが並んでいる。僕らが立つ真横だって――逃げなければ、という意思に反して、体が固まって動けない。
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