第23話 ぶっチュー
体育館の壇上に校長が立っている。その横にゴリさんとノッポさんが並んでいる。僕らも舞台に立つと言ったが、君らはここで、と舞台袖に押し止められていた。
「先ほどは、ほんとバカ者たちがお騒がせして申し訳ありませんでした」
マイクを手にした校長が睨むような視線を横に向けたが、ゴリさんたちは不貞腐れた子供のように視線を落としている。
その姿に校長は苦笑いを浮かべ、
「普段は仲がいいんですが……よすぎるというか、なんというか……要するに図体ばかりにでかくなっても、ガキなんですよ」
そんな言葉を耳にしたゴリさんがつぶやいた。
「だって、こいつが……」
まるで子供のように口をひん曲げたゴリさんが、ノッポさんを睨んだ。ノッポさんも顔を上げ、睨み返しながら、「お前が悪いんだろ」とゴリさんの肩をこずいた。
まさに子供の喧嘩といった感じのこずき合いが始まっている。二人の言い合いを校長のマイクが拾っている。拾っているというより、二人の前で片膝をついた校長が、声が入るように構えているのだ。
こずき合いながら二人が近づいていき、顔も迫っていく。そして、
ぶっチュー。
テレビなどでお笑いの人たちがしているのを知っている人からは笑いが起き、知らない人たちは驚きの表情を浮かべている。
ゴリさんたちは、口もとをぬぐいながら、うぇーっと気持ち悪がっている。
その姿に体育館に和やかな笑いが広がっている。
そんな中、ゴリさんとノッポさんは深々と頭を下げ、舞台袖へと戻ってきた。にやりと笑みを浮かべ、ハイタッチすると、表情を引き締め、それぞれの場所へと向かっていく。
舞台上では改まった表情で校長が現状の説明を始めた。
移動――その言葉がでただけで、ざわめきが広がっていく。
舞台袖からは、いくつもの不安顔が見てとれる。このまま、土砂崩れ、などと言ったら、我先にと出入り口に殺到し、狭い校門にも車が押し寄せて大混乱になりかねない。
だが、校長は動じることも、深刻な顔をすることもなく、大量の雨水で構内の下水道に不備が生じたと説明していった。
「大丈夫です」
校長のその言葉には力がある。僕らにも思いと信念が伝わってくる。避難者たちも納得してくれているように見える。
みんなのおかげでなんとかなる。そう思えてくる。
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