第15話 校長先生
ノッポさんの話しによると、それは成人式の日に遡るらしい。成人式後のクラス会で事件が起こったというのだ。
ノッポさんが写真のほうへと目を移し、
「ほら、ここに写ってるおっさん」端のほうで、後ろ手で胸を張って立つ恰幅のいい人を指差し、「あいつの倍くらい恐い顔してるだろ。この人が顧問であり、担任でもあるんだけど、そりゃもう、顔同様に恐い人なわけだよ」
確かに眉間にしわを寄せ、カメラのレンズを睨んでいるような姿からも想像がつく。
「ほら、よく見てごらん。この辺り、ちょっときてるだろ」顔の辺りを、円を描くようになぞり、「写真じゃあまり分からんか。生え際っていうより、つむじ辺りがきてたからな」
なんとなく言いたいことは分かった。言われてみれば、少しおでこも広いのかな?
「先生も転任ということで、俺たちの卒業と同時に学校は去っていたんだけど、5年ぶりに会ったら、ふっさーだったわけだよ」
両手を頭の上に持っていき、指を全開に広げている。
「だけど悲しいかな、違和感ありありで。でも、隠しているってことは、そこには触れるなってことだろ」
なんとなく話しが見えてきた。そこでゴリさんが何かやらかしてしまったのだろう。
「それなのに、あいつは酔っぱらって調子に乗りやがって、『はい』なんて小学生見たいに手をあげて、『先生に確認したいことがあります』とか言って、先生のところまでいって、『失礼します』って、座っている先生の頭に手をかけやがったんだよ。もうその後は大変よ。みんな固まっちゃうし、先生は鬼の形相で去っちゃうしで、みんなが慌てふためいているのに、あいつときたらそのまま寝転がって、イビキまでかいてやがるんだよ」
そこでノッポさんは、にやりと笑い、「だけどな、実をいうと――」
それは先生渾身の冗談だったというのだ。頭のことに触れられるのを待っていたらしく、先生はすぐに戻ってきて、剃り上げられたツルツル頭をポンポン叩きながらにやけていたというのだ。
とはいっても恐い一面しか知らないから、誰もが笑うに笑えなかったらしい。
「それで、その先生っていうのが、去年から校長になって、この学校に戻ってきたってわけだよ。それからのあいつは、柿沼に来ることがあっても、学校には絶対近づきやしない」
「でも、なんで……」
呟きが漏れる。冗談だったなら別に気にしなくても。
ノッポさんは、にやにやしながら、
「いつまでも寝ていたお仕置きとして、先生は激怒して帰っちまったってことにしてあるんだよ。要するに冗談だったと伝えてないってわけだよ。っていうか、すっかり忘れていたんだけどな」
「ひどい」
美和が微かな笑みで言うと、ノッポさんは、(そう)だあーな、と苦い笑いを浮かべた。
「ああ、それより君たちの話しって?」
「それについては」
このホールにも人の行き来がある。ということで、ほとんど人が来ない場所へと案内してもらった
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