第16話 無力
校舎と体育館を結ぶ外廊下。
屋根を叩く雨音は小さくなってきている。予報では一時的に弱くなることもあるが、断続的に降り続くとのことだった。
時より人が顔を覗かせるが、ここなら大丈夫そうだ。ゴリさんの仲間であるノッポさんなら、そんな思いで全てを話した。
「そうか。それでわざわざ」ノッポさんは小さくうなずき、「分かった。後はこっちで考えるから」
話しは終わったとばかりに、向きを変えて歩きだそうとしている。
「考えるって?」
呼び止めるように声がでていた。
きっと何もしない。話しの途中からそれは感じていた。
振り返ったノッポさんは、それはいろいろ、と言葉を濁している。昔の話しをしていた時とはトーンがまるで違う。
「僕らの話しを信じてもらえないんですか」
ノッポさんは体ごと向きを変え、
「もちろん、君らが嘘をついているとか、悪ふざけをしているとか、そんなことは思っちゃいない。だけどね、この裏の荒手山のことは君らより、よく知ってるんだよ。この山は今までに一度だって崩れたことはないんだ」
「なによそれ。答えになってない」
美和が語気を強めて言い返した。
「いいか」ノッポさんはあくまで冷静に言葉を発している。「ここの体育館は耐震工事もされたし、頑丈な建物なんだよ。だからこそ、避難場所であり、一番安全な場所なんだよ」
「安全なんかじゃいって言ってるじゃない!」
美和が声を張り上げると、ノッポさんは溜息をもらした。
僕もノッポさんへと言葉を投げかける。
「頑丈だとしても、窓や壁を突き破って土砂や濁流が流れ込んでくるんです。あっという間に埋め尽くされて多くの人が――」
「分かった」僕の言葉を立ち切り、「検討してみるから。君らはもう帰りなさい。遠回りにはなるが、荒下駅まで歩けば、大黒井駅行きのバスがあるから。そっちの路線は電車が動いているから」
横で美和が唇を噛みしめている。背を向けてしまった姿を見つめる瞳からは涙がこぼれ落ちている。
なんで信じてくれないんだ。なんで……。
悔しさと虚しさが込み上げてくる。無力感に視線が落ちていく。目の前も何もかも真っ暗になっている。
暗闇。
その向こうから何かが……何かが流れ込んでくる。耳へと。
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