第8話 その日の夕方
夕方のテレビで天気予報が放送されている。自然と一ヶ所へと神経が向かう。
――雨。
このところ何度か大雨があったので緩んだ地盤には充分に注意してほしい、そんな声がテレビから聞こえてくる。
胸がざわめいている。やはり、現地に行って伝えるしかない。
電話作戦が失敗した後、次の方法を考え、美和とともに図書館へと足を運んでいた。そして、地図や時刻表と格闘しながら現地までのルートを調べ上げていた。
メモを手に確認していく。
始発で行けば、昼前には最寄り駅に着ける。駅からはそう離れてはいない。乗り継ぎなどで時間ロスがあったとしてもタイムリミット(17時30分)前には目的の中学校に着けるだろう。
メモをポケットにしまうと、キッチンに行き、ラップのかかった皿をレンジへと入れた。
今日は会社の飲み会があって遅いらしい。マーボー豆腐とサラダが冷蔵庫に用意してあった。
母ちゃんにはなんと言おう。
壁にある小さなホワイトボード。その前に立ち、黒ペンを手にした。
『明日は柔道の試合のため、朝イチで家をでます。てきとうに朝メシも食べていくので、日曜なんだから母ちゃんはごゆっくり』
帰りが遅いといっても、いつもの飲み会時のように21時前後には帰ってくるだろう。
だから、口で伝えればいいのだが、できれば伝言板で済ませたい。余計な心配はかけたくないけど、もう面と向かって嘘はつきたくなかった。
それは美和に対しても同じなのだが……。
受話器を手にした。そして、
「なんか、さっき突然、役所の担当者から電話があって、早急に対処してくれるっていうんだよ。だから、明日は行かなく大丈夫になったから。お前は試合に行けよ」
自然と早口になっていた。何度も、本当に、と言われたが、それでも押し切った。
「よかったあ。これでひと安心だよ」
そう言って、半ば強引に電話を切り上げた
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