第7話 再び僕の家のリビング

 あの日の事故を僕は知っていた。


 水泳教室に向かうため交差点で信号待ちしていた小学生に、危険ドッラグを使用していた若者が突っ込んでしまうという、新聞記事を夢で目にしていた。

 そこにあった文字が刻みこまれるように記憶されていた。


 奇跡的に3人は骨折や打撲と、頭部からの出血(検査の結果、命に別状はない)で済んだが、今も胸の奥に、痛みで泣き苦しむ子供たちの声が鳴り響いている。


 もしあの時、もっと早く行っていれば、うだうだ考えることなく夢を信じて、あの場に行ってさえいれば、あんなことにはならなかった。


 あの日が初めてだったわけじゃい。それまでだって夢を見ていたのに自分で自分が信じられなかった。夢が……信じれていなかった。


 あの日、救急車を見送り、暗くなった道を家まで歩きながら、自然と言葉が漏れていた。信じてくれようがくれまいが構わない。誰かに話しを聞いてもらいたかった。いや、美和に聞いてもらいたかったんだと思う。


 僕が話し終えると美和は足を止め、真直ぐな目でじっと見つめてきて、「そっか」


 言葉はそのひと言だけだった。その後は僕も美和も、家までの道を無言で歩いた。


 あの時は信じてくれたのかどうかは分からなかった。でも、置き去りにされていた子供の夢を見た朝、めいっぱい自転車をこいでくれた。夢で見たんだ、というひと言だけで。





 目の前を見れば、あの時と同じ目がある。真っ直ぐと見つめてきたあの目が。

 力強い声が耳に届いてくる。


「チャポ。必死に訴えたら言葉は届くよ」

「お前だから」


 絞り出した言葉を優しい声が受け止めてくれる。


「そうかもしれない。だけど、みんなにも絶対に届けなくちゃ。チャポの夢は未来からのSOSなんだよ」


 未来からの……SOS。


 今日見た夢が頭の中を駆け巡る。多くの悲しい涙が、悲しい血が流れている。


「助けられる命を見捨てるわけにはいかない。そうでしょ、永井和人!」


 その声に自然と力が湧いてくる。

 僕は首を縦に動していた。

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