第6話 回想~遡ること中間テストの日
帰り道の足が重い。
高校に入って初めてのテストは、悲惨な結果になるのは間違いない。今朝見た夢が気になり、テストどころじゃなかった。
ふと物音がすることに気付き、公園へと足を踏み入れた。
砂地のコートに長袖Tシャツにデニムスカートの美和がいる。
見つめる先にはバスケットゴール。軽くジャンプしたその瞬間、手からボールは放れ、綺麗な放物線を描き、ゴールに吸い込まれた。
そういえば、昔はこの公園でよく遊んでいた。住宅街にあって広くはないが、いくつかの遊具と、砂地のスペースにはバスケットゴールと使い古しのボールがカゴに置かれていた。隣がスーパーなので、幼稚園の帰り、母親たちが買い物している間、美和と遊びながら待っていることが多かった。
美和は落下したボールに駆け寄り、手にするとドリブルで戻り、再びシュートを放った。きっとテスト期間中は部活が休みで体育館も使えないのだろう。
黙々とシュート放つ姿を横目に、立ち去ろうとすると声が飛んできた。
「こらっ! 何を盗み見している」
ドリブルしながら近づいてくる。
「はぁ?」
「はぁ、じゃない。あっ、わかった。パンチラでも狙ってたんでしょ。このすけべ野郎」
「あのなぁ。なんで、そうなるわけ。あなたのなんて頼まれても見ません」
「きもっ。敬語になってるし、あやしーい」
「バーカ。うるせっ」
「あらあら、むきになっちゃって。すけべ君には小学生の時も、よくスカートめくられたし、あー、あやしいあやしい」
「バカッ。あれは遊びだし。それにお前のスカートなんて一回もめくってませんから」
誰かがテレビで昔の小学生がそんなことをしていたのを見て、ほんの一時期だけうちのクラスでそれをまねた遊びが流行っていた。
「あら? そうだったかしら。まあ、今日のところはそういうことにして置いてあげますんで、買い物付き合ってよ」
「なんで?」
「なんでって、夕食の買いだしだよ。ママがさあ、パパのところに行っちゃったわけさ」
「おじさんのところ?」
「そう。ただの風邪なのに、私に拓とじいちゃんを押しつけて、わざわざ行っちゃうんだから」
「相変わらずラブラブなんだな」
「まあ、そういうこと。仲が悪いよりは、良い方がいいんだけど。こっちはテストで忙しいっていうのに困ったもんだよ」
「それで、お前が夕食をつくるんだ。朔じいと拓、マジ大丈夫?」
「どういうことよ。料理は結構得意ですから」
「うそつけ。ほらお前、いつだったか、ハンバーグという名の炭、作ったことあったろう」
「あれは横からゴチャゴチャ言うから、つい焼き過ぎて……もう、うるさい。ご心配なく、料理を作るのは恵ちゃんですから」
「はあ?」
「恵ちゃん、今日ね、大口をゲットしたから早く帰れたんだって。それで、さっき夕食に誘われて、買い物を頼まれちゃったんだよね」
「へぇ」
母ちゃんは保険の外交員をしている。
「じゃあ、買い物よろしく」
軽く手をあげて歩いていこうとすると、いてっ、背中に衝撃が走った。振り返ると、ボールが弾んでいる。
「もちろん、君も一緒でしょうが」
「ごめん、ちょっと用があるんだよ」
「用ってなに? バイト?」
そう言われると、口ごもってしまう。
「でも、テスト期間はバイトじゃないよね」
「いや、えーっと」
「なに! はっきりしなさい」
あぁ、もう。こっちだって、はっきり言いたいよ。だけど分かんねえんだよ。自分でも、何がしたいんだか分かんねえんだよ。
「あれ? そういえば、こっちってチャポの学校からの帰り道と違うよね。それにテスト終わりにしちゃ、帰りも遅いよね」
確かにそうだよ。駅をでてから、あえてファストフード店で時間をつぶし、大周りしてこの道を通っているのだから。
そうだ、時間。
腕時計へと視線が走る。と同時に駆けだしていた。美和が何やら言いながら追いかけてくる。だが、振り返ることもなく全力で走った。スーパーの横を回るようにして表通りにでていく。
交差点に3人の小学生の姿がある。
やっぱり、あの夢は……。
僕は知っている。この男の子たちを。白いTシャツが血に染まることを。
「逃げろ!」
必死に叫んだ。だけど――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます